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Datos Insights experts weigh in on critical topics and trends in their industry verticals.

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May 4, 2024
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米国金融機関の生成AI活用状況
2022年末のChatGPT発表以来、生成AIに関する関心が非常に高まり、金融機関でも様々な活用方策が検討されていますが、米国金融業界における実際の導入事例はまだそれほど多くないようです。ここでは、その背景を探るとともに、実績を挙げている事例をご紹介します。 ■ 慎重な姿勢金融機関における生成AIに対する関心は高いが、米国の場合、実際の導入にはかなり慎重だ。アメリカン・バンカー誌が2024年3月に発表した調査結果によると、回答のあった127行のうち、全社的な生成AI導入の取り組みを進めている金融機関は2行だけで、限定した業務で小規模な導入を行っているケースが15行、パイロット・プロジェクト段階が30行だった。残り80行は「情報収集段階」「導入計画なし」「不明」との回答だった。 慎重な姿勢の背景には「想定外の結果が出る(Unforeseenable results)」「意図しない差別的要素が含まれる(Unintentinonal biases)」「顧客情報の流出」など金融機関として致命的なリスクが生じる可能性に加え、今後、生成AIに関してどのような規制が制定されるかが不明なことも積極的な活用に踏み切れない要因のようだ。積極的に取り組んでいる金融機関でも「生成AIが出した結果を人間が精査してから活用する分野」を優先している。 ■ 生成AI導入事例生成AIを使ったシステム開発/ソースコード作成は有望な分野だ。シティバンクでは、GitHub Copilotをシステム開発要員(Developers)4万人全員が活用するプロジェクトを推進している。AMEXでもシステム開発メンバー6000人が2024年6月までに生成AIを活用できる体制を導入し、10%の生産性向上を見込んでいる。生成AIが作ったソースコードであってもテストは人間が実施するので、想定外の結果が含まれていてもそれを排除するのに大きな問題はないとの認識だ。 コールセンターのエージェント支援も生産性向上に寄与できる分野だ。AMEXでは、プレミアム・カードの所有者向けに旅行支援サービスを行っているが、「ペット同伴可能な高級リゾート・ホテルを知りたい」など、難しい要望の情報検索に生成AIを活用することで、待ち時間が1分程度短縮できたという実績があがっている。ディスカバー・カードでも複雑な問い合わせに対する社内情報検索に生成AIを用いると、エージェントが正解に到達できる時間が短くなったとしている。更に同社では、チャットボットで解決できない問題を(人間の)エージェントが引き継ぐ際、それまでのやり取りを生成AIが要約することで、エージェントが状況を短時間で把握でき、スムーズに引き継げる仕組みの導入を進めている。 このほか、Comerica銀行などでは、社内ヘルプデスクに生成AIを組み込んで質問の回答の中に該当資料へのリンクを提示することで、社員や対応要員の生産性向上に寄与できたとしている。 ■ 今後の活用方策生成AIの可能性は誰もが認めるところだが、予期せぬリスクも排除できない。そのため現時点では(1)マイクロソフトやグーグル等が提供する汎用生成AIを業務に活用して生産性向上につなげるアプローチ(会議結果の要約や原稿作成など)か、(2)生成AIが読み込む情報源を自社データに限定することで回答内容を想定内に納める方策(ディスカバー・カードやComerica銀行の事例)が用いられている。一部のユーザー企業では、オープンソースの生成AIを導入して自社内でそのアルゴリズムを把握した上、新たな活用を検討している企業もある。 いずれのアプローチも生成AIの良さを生かす方策第一歩として有望であり、その他様々な活用が試みられることは間違いない。生成AIをはじめとする人工知能活用の発展に、今後とも注目しておきたい。
Susumu Suzuki
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April 13, 2024
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銀行アプリ:次のイノベーションはデジタル・レシート管理?
弊社では、デジタル・バンキング時代の差別化施策として「銀行モバイル・アプリでデジタル・レシートの受領/管理が可能になる」という仮説をたて、米国/英国/ブラジル/オーストラリアの消費者2500人に利用の可否を聞きました。その興味深い結果をレポート:Consumer Clarity: Seamless Merchant Interactions Through Innovative App Featuresにまとめました。 ■ 4か国消費者アンケート調査銀行モバイル・アプリが普及したことで、今後は他行と異なるサービスを付加することで差別化施策としたいと考える金融機関も増加している。Datos Insightsでは、チェックアウト時の(カード決済による)レシートを銀行アプリで受領することを想定、米国/英国/ブラジル/オーストラリアの消費者計2500人(米国1000人/他各500人づつ)にアンケート調査を実施してその関心度を探った。具体的には「デジタル・レシートの受領/管理」に加え、「カードで決済している定期購読の解約」「カードで購入した商品の返品」「カード不正利用に対する通知」などの付加価値サービスが銀行のモバイル・アプリで提供されれば利用したいかどうかを聞いた。 消費者の反応は非常に前向きなものだった。デジタル・レシート(現在提供されているサービス:後述)を利用したことのある1800人のうち90%以上が「便利だ」と回答、更に銀行がモバイル・アプリでデジタル・レシート受領/管理が可能になることに対し、過半数が関心があると回答した。興味深いのは、ブラジルの調査結果が最も前向きだったことだろう。ブラジルではネオバンク(注)のNuBankが既にデジタル・レシート受領サービスを提供しており、国民の平均年齢が最も若いこともこの結果を後押しした思われる。 (注)NuBankは、世界で最も成功したデジタル・バンクの一つで、人口2億1000万人のブラジルで8000万口座を獲得している。 ■ デジタル・レシートの現状と認識現在、米国をはじめとする各国では、お店にとっては「用紙の節約」、顧客にとっては「レシート管理の利便性」との視点からデジタル・レシートが推進されているが、現時点での対応方策では、最初の1回だけとはいえ消費者は店頭チェックアウト時にメールアドレスか携帯電話番号(日本ならばLine?)を入力する必要があり、必ずしも普及しているとは言い難い。加えてプライバシーの観点から懸念を抱く消費者もいる。英国では米国よりもネオバンクが多いためか、米国よりも前向きな調査結果だった。 ちなみに、金融機関がデジタル・レシートに関心を持つ背景は、前述の「定期購読解約」「返品」等のサービス提供以外に大きな野心がある。自行発行(或いは自行系列のカード会社発行)のカード利用に関するレシート情報が集まれば、顧客の消費動向を精緻に把握できるという大きなメリットが想定されるからだ。加えて、カード情報から個人とその銀行口座が紐づけられるので、消費者が個人情報を入力する必要がない。 ■ レギュレーション遵守とシステム・インフラの必要性もちろん課題もある。銀行のモバイル・アプリにデジタル・レシート管理機能を盛り込むには、個人情報保護/データ・セキュリティなどレギュレーション遵守が大前提となる。また各金融機関とそれぞれの小売事業者が個別に連携システムを構築することは事実上不可能であり、カードネットワークのような何らかの業務インフラが必要となる。更には、金融機関と消費者のメリットに加え、小売事業者のメリットも明確にする必要がある。 ここに解説したようなデジタル・レシート管理機能が金融機関から提供されるかどうかは不明だが、金融機関がデジタル・バンキング時代の差別化施策を模索していることは確実であり、その動向を引き続きフォローしておきたい。
Susumu Suzuki
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March 31, 2024
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デジタル・バンキングとWeb Accessbilityへの配慮
金融サービスのデジタル化が進展する中、ウェブ・アクセシビリティへの配慮が次第に重みを増しています。弊社ではレギュレーション動向や金融機関の取組み、この分野のサービス・ベンダーの状況などをレポート「The Accessibility Challenge in Digital Banking」にまとめました。ここではその概要をご紹介します。 ■ ウェッブ・アクセシビリティ調査によると、米国では国民の12%程度が何らかの障害(先天的/後天的/一時的/年齢からくる問題などを含む)を持つ一方、視覚障害や聴覚障害にフル対応しているWebサイトは3%でしかない。このような状況に対して、Webサイトの技術標準化団体:W3C(World Wide Web Consortium)が「ウェブ・コンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン(WCAG)」を発行、各国がこれに基づく規制/法律を策定している。 日本では、2024年4月より障害者差別解消法の改正法が施行され、ウェッブ・アクセシビリティが「努力義務」から「合理的配慮の提供義務化」となった。Webサイト上での具体的な対応が義務化されたわけではないが、それに向けての前進と言えよう。 ■ 金融機関の取組み金融業界でも、デジタル・バンキングが推進される中、ウェッブ・アクセシビリティを重視しなければならない時代となってきた。先進的な取り組みとしては、JPモルガン・チェイス銀行では、Office of Disability Inclusion部門を設け、リテール顧客向けWebサイトの対応を進めるだけでなく、障害者の雇用なども積極的に進めようとしている。バンク・オブ・アメリカのAccessible Bankingも同様の取組みと言えよう。 企業としてのステートメントを示し、リテール・バンキング顧客向けWebサイトのアクセシビリティ対応を進めている金融機関は増加しているが、コマーシャル・バンキング分野(顧客企業の担当者を対象としたアクセシビリティの提供)や金融機関自身の社員をも含む総合的な取組みを進めているケースは、まだ少数派のようだ。 ■...
Susumu Suzuki
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March 22, 2024
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20年をかけDXを成就したUPS:配送ルート最適化成功のカギは「トップの認識」と「企業カルチャー」
米国最大の宅配会社UPSでは、2003年に配送ルート最適化の研究に着手、10年後の2012年からシステム導入を開始しました。その後も改善を続けた結果、現在では全世界の配送トラック12万台が走行距離削減(=燃料節約/CO2排出削減)という大きな成果を享受しています。デジタル・トランスフォーメーションの先駆者:UPSの取り組みをまとめてみました。 ■ 配送ルート最適化システム:ORION米国の運送会社UPSは、売上規模910億ドルとFedExを凌ぐ米国最大の宅配企業だ。配送トラック12万台がグローバル220か国で毎日2000万個以上の荷物を配達している。2003年、同社ではデータ分析による配送ルート最適化システム:ORION(On-Road Integrated Optimization and Navigation)の研究開発に着手した。 まずは、ベテラン運転手がどのように走行ルートを決めるかをヒアリング、2008年にはモデル拠点11箇所を選定して、配送トラック1500台に各種センサーや車載GPSを搭載、収集したデータからUPS独自の経路地図作成を開始した。最適経路の計算には、(運転手のインプットによる)信号待ちが少ないルートなど合計2億5000万箇所にのぼる独自の道路情報も活用されている。アルゴリズムは、現場からのフィードバックも加味して改善を続け、ベテラン・ドライバーよりも効率の良いルート選定が可能となった。 2012年に始まったORIONの導入は、2017年には全米展開を完了(トラック5万5000台)、この時点でトラックあたり1日平均8マイル(約12㎞)の走行距離削減が達成できたという。その後は、カナダや欧州への展開を進める一方、米国ではAIを活用した動的最適化機能を持つ新バージョンの開発に着手した(Dynamic ORION:道路混雑の状況や顧客からの配達変更/集荷要望にリアルタイムで対応できる。当初版は、トラックが朝配送センター出発前に選定した最適ルートで走行し、集荷要望等は運転手に電話連絡していた)。2021年夏には米国内でDynamic ORIONの導入を完了、更に平均2-4マイル/1日/トラックの削減となった。 ■ 導入が成功した理由走行ルートの最適化(いわゆる「巡回セールスマン問題」)は、昔から広く知られた課題だが、全組み合わせを比較するには大型コンピュータを活用しても膨大な時間が必要となる。UPSのイノベーションは、実用的なアルゴリズムを作成し、それを全社に定着させたことだろう。 UPSには、もともと「定量的に物事を考える(Quantitative Company)」「継続的な改善を良しとする(Constant Improvement Company)」という企業カルチャーがあった。1990年代後半の時点で運転手は既にGPS付きハンドヘルド端末を使っていたが、経営陣は「運転手の頭にある経路選択ノウハウを集約してデータベース化できれば、最適なルート選定モデルを作れるはずだ」との認識があり、10年以上に渡るプロジェクトを後押しした。 現場の運転手にも多大な協力をもらっている。「自分の直感とは違うルートが指示されてもそれに従う」「工事による道路閉鎖など、ルート決定に影響する担当地域内の情報を随時インプットする」など現場の協力が得られたことで、配送ルートの精度が向上して成果が上がり、それがORIONの信頼を高めるという好循環が生まれた。Dynamic ORION導入で直感と異なるルートが指示されるケースが増えているが、運転手のORIONに対する信頼感がなければとても成立しない。 ■...
Susumu Suzuki
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March 9, 2024
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ビジネス・レジリエンスにサイバー攻撃対応を含める必要性
昨今ランサムウエアやハッキング等でコンピュータ・システムが利用不能となり、企業や市町村のサービスが長期間マヒする「インシデント」が増加しています。このような事態に対して(1)サイバーセキュリティ対策と独立して「サイバー・レジリエンシー(回復力/継続性)対策」を立案し、更に(2)既存のビジネス・レジリエンシー対策(BCP/DR)との一体運用が必要だと考えられます。弊社では、この分野の課題と対処方策をレポート:CISO Guide to Cyber Resiliency: Building a Future of IT Stabilityにまとめました。ここではその概要をご紹介します。 ■ サイバー・レジリエンシー対策の必要性企業や地方自治体のビジネス・レジリエンシー(回復性/継続性)対策(ディザスター・リカバリー(DR)/ビジネス継続性(BCP)などとも称される)は、これまで地震などの自然災害や停電/火災など「物理的な」事故/災害を想定して、事業の継続方策が検討されてきた。昨今ランサムウェアなどサイバー攻撃がビジネスをマヒさせるケースが散見されるようになり、サイバー・インシデントを含んだレジリエンスの確保が必要だとの認識が広がっている。ところが、これまでコンピュータ・システム被害を防ぐサイバーセキュリティ対策はあっても、サイバー・インシデント後の事業継続や復旧方策を検討してきたケースは多くない。 ■ サイバーセキュリティ対策とサイバー・レジリエンシー対策の分離ここでは、まずサイバーセキュリティ対策とサイバー・レジリエンシー対策を区別してみたい。(1)サイバーセキュリティ対策これまで実施されてきた、サイバー攻撃からの被害を防ぐ/最小限に留める施策全般・サイバー被害予防策導入の徹底(脆弱性への対処など)・サイバー攻撃の検知と阻止方策の導入・デジタル情報の保護(暗号化など)・DDoS攻撃に対するシステム保全など (2)サイバー・レジリエンシー対策(サイバー・インシデント後の復旧対策)レジリエンスの確保には、まずサイバー攻撃がビジネスにどのような影響を与えるか(「顧客サポートができない」「営業活動ができない」「流通が止まる」「生産ができない」など)を理解し、継続の必要度に合わせたリカバリー対策(全面復旧/部分復旧を目指すのか、代替手段を導入するか等)を考案する必要がある。更に以下のような事項の事前検討も必要となるだろう。・ビジネス全体としてのダウンタイムの最小化・金銭的被害の最小化・意思決定手順の明確化(「いつ社内業務をレジリエンシー・モードに切り替えるか」「いつ社内/社外にインシデントを宣言するか」「非常時における外部リソース活用方策」など) ■ サイバー・レジリエンシーとビジネス・レジリエンシー対策の融合サイバー・レジリエンシーの骨格が出来た後は、従来からあるビジネス・レジリエンシー対策との整合性を検証し、インシデント対応の一体化が必要となる。その中ではインシデント対応体制の見直しやチーム・メンバーのトレーニング/相互理解の強化なども含まれるだろう。 国際情勢が緊張感を増す中、米国では(高度な技術力を持つ)他国家によるサイバー攻撃への警戒感が高まっている。そのようなサイバーセキュリティ動向も念頭におきながらサイバー・レジリエンシー対策の立案を進める必要があると思われるがどうだろう。
Susumu Suzuki
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March 2, 2024
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個人投資家のオルタナティブ投資
昨今、日本政府の資産運用立国を目指す方針表明や、新NISAの導入などにより投資に対する関心が高まる中、オルタナティブ投資への注目も集まっています。米国でも、富裕層やマス・アフルーエント層では、ポートフォリオにもオルタナティブ資産を組み込む動きが始まっています。Datos Insightsでは、北米(米国/カナダ)のウェルスマネジメント企業80社に対して実施したオルタナティブ投資に関するアンケート調査を実施、その結果をレポート:North American Wealth Managers Adoption of Personalization at Scale: Alternative Assets にまとめています。 ■ オルタナティブ資産と品ぞろえオルタナティブ資産は、株式や債券などとはリスク・リターンの特性が異なるため長期分散投資に必要な要素と考えられ、以前から年金基金や大学の基金運用などのポートフォリオに組み込まれていた。これが次第に超富裕層にも浸透し、昨今では富裕層/マス・アフルーエント顧客からも注目されるようになってきた。 オルタナティブ投資という言葉からは未上場株を思い浮かべる方も多いかもしれないが、今回の調査では、それに加えて不動産投資/インフラ投資/私募債/コモディティ/エネルギー/貴金属/デジタル・アセット/ヘッジ・ファンドの取組みも調査した。 米国のワイヤハウスやカナダの五大銀行をはじめとする大手ウェルス・マネジメント企業では、これらすべての投資商品を取り扱っているが、オンライン証券や小規模なウェルス・マネジメント企業では、未上場株/不動産投資/インフラ投資/私募債は取り扱っていても、コモディティ/エネルギー/貴金属の取り扱いは限定され、デジタル・アセットとヘッジ・ファンドは更に少なかった。 ■ 個人顧客におけるオルタナティブ商品の組入れ割合と今後の動向現時点では、オルタナティブ投資を行っている顧客は超富裕層やファミリー・オフィスに限られており、顧客数の視点からはごくわずかである。更に、それらオルタナティブ投資を行っている顧客においても、ポートフォリオに対する組み入れ割合は10%以下が70-80%を占め、組み入れ割合が10%を超える顧客は20%未満との回答がほとんどだった。ただ3年後の想定としては、ポートフォリオにおけるオルタナティブ投資の割合が10%以上となる顧客の割合が40%を超えるのではないかとする回答が多かった。 ■...
Susumu Suzuki
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February 22, 2024
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米キャピタル・ワン銀行のディスカバー・カード買収提案を解説する
2024年2月19日、米国ではCapital One FinancialがDiscover Financialを353億ドルで買収する提案を発表しました。日本ではなじみのない両社ですが、クレジット・カード業界に大きな変化をもたらす可能性があり、米国金融業界では注目が集まっています。その概要を解説してみました。 ■ Capital One Bankの歴史、Discover Cardの歴史Capital One Financial(キャピタル・ワン)は、1994年にシグネット銀行(バージニア州)のカード部門がスピンオフして誕生、当初はクレジット・カード専業企業として比較的信用度が低い顧客に対して徹底したリスク管理を武器にカード事業を伸ばしてきた。その後、銀行数行を買収して銀行業務にも進出、現在ではクレジット・カード残高で全米第4位(2023年1229億ドル)の大手金融機関だ。信用度の低い顧客へのカード発行にはデータ分析が必須であるため、創業当初からデータ活用に非常に積極的な企業だった。最近では、大手金融機関として初めてコア・システムのパブリック・クラウドへ全面移行を完了するなど、デジタル・トランスフォーメーション最先端企業としても知られている。 一方のDiscover Financial(ディスカバー・カード)は、1985年、当時米最大手百貨店だったシアーズのカード部門として発足、その後モルガン・スタンレー傘下となり2007年のスピンオフを経て上場企業となった。2023年のクレジット・カード残高は940億ドルと全米第6位だ。米国では、クレジット・カードのアワードとしてキャッシュ・バックが定着しているが、ディスカバーはCash Backを提供した最初のカード会社だった。ブランド・イメージは、AmexやVisa、MasterCardには及ばないものの、Webサイトの使い勝手など顧客満足度調査では毎年他社をしのいでいる。 ディスカバー・カードの大きな特徴として、カード発行機能とカード・ネットワークを兼ね備えている点がある(AmexやJCBと同様:米国では銀行はカード発行に注力し、カード利用/決済はVISAかMasterCardが提供するネットワークを利用するケースが大多数である)。キャピタル・ワンCEOのフェアバンク氏は、買収提案発表の際、ディスカバー・カードのネットワークに大きな価値を見出したと説明した。 ■ 立場により異なる合併の影響(カードネットワーク)今回の合併は、米国に4つあるカード・ネットワーク(VISA/MasterCard/Amex/Discover)の1社が大手銀行と一体となることを意味する。現在VISAとMasterCardのシェア合計は75%程度だが(Amex=20%、Discover=4%程度)、キャピタル・ワンは、現在のVISA/Master利用を順次自社ネットワークへ切り替えると思われ、カード・ネットワークの競争激化が予想される。買収発表後、VISAとMasterCardの株価は下がり気味だ。 (銀行:カードローン提供者として)クレジットカードの利用残高は、JPモルガン・チェイス銀行が1914億ドル(2023年度)で第1位だが、キャピタル・ワンとディスカバーが合併すれば利用残高の単純合計はJPモルガンを上回ることになり、一部の政治家や消費者保護団体からは競争を阻害し消費者に有害だとの意見が出ている。また、米国では金利水準が高まる中クレジット・カード残高も増えており、景気動向次第では延滞リスクが高まる可能性を懸念する声もある。 (金融当局の承認)このように、今回の合併案には競争を促進する面と阻害する面があるため、当局から合併計画の承認が得られるかどうかは流動的だとの意見もあるが、Datos Insightsのアナリストは、最終的には合併の承認が得られる可能性は高いのではないかと捉えている。...
Susumu Suzuki
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February 18, 2024
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不正対策が不十分な上に補償も拒否:NY州司法長官がシティバンクを提訴
2014年1月、ニューヨーク州司法長官が「口座乗っ取りに対する十分な不正防止対策を導入せず、かつ不正被害者への補償を拒否している」としてシティーバンクに対する訴訟を起こしました。テクノロジー面/行内コミュニケーション双方の課題が浮き彫りになっています。 ■ 未解決の不正送金事件ニューヨーク州司法長官がシティーバンクに起こした訴訟に関する発表(プレスリリース)では、犯罪者が被害者の口座を乗っ取り不正に送金したのに被害者の損失を補償しないのはElectronic Fund Transfer Act (EFTA)に違反するとし、2つの事件の概要に言及している。 2021年10月に発生した第1の事件は、被害者はフィッシング・メッセージのリンクをクリックしたが、個人情報は入力せず、かつ近隣の支店に対して「リンクをクリックしたので不安だ」との連絡をしたのにも関わらず、支店では「問題ない」として対応しなかったというものだ。被害者は、3日後にパスワードが勝手に変更され4万ドルが送金されていたことに気づいた。 第2の事件では、被害者はオンライン口座を閉鎖したとのニセ・メッセージを受け取り指定された電話番号へ連絡したところ疑義のあるトランザクションに関する確認コードを送ると言われ、その後3万5000ドルが送金されてしまったという。シティバンクは、どちらのケースも自行に落ち度はなかったとして補償していない。 ■ 不正送金は検知可能だったのかテクノロジー面を考えると、より高度な不正検知ソリューションが導入されていれば犯罪者による不正送金が検知できたのではないかと考えられる。・バイオメトリックス連続認証:口座所有者本人のアクセスする際の癖(キー入力のスピード/パターンやアプリの使い方(スマホの傾き等))を記録しておき、それとは異なる動きでアクセスがあった場合にアラートを出す・上記にデバイスIDやIPアドレス(ロケーション・データ)を組み合わせて異常アクセスを検知する・AI/MLを活用し、通常とは大きく異なる送金額や送金先/送金パターン(異なる金額で同じ送付先へ連続送金がある等)を検知し、併せてパスワード変更等との関連を見出す ■ 訴訟の結末は?シティバンクは、現時点では「更なる不正防止と顧客の資産保護に取り組む所存だが、損失補償の義務には該当しない」との声明を出している。金融不正に関して金融機関が提訴されるケースは今回初めてだと思われ、その判断はCitiBankだけでなく今後の米国金融業界全体の不正防止への取組みに大きな影響を与えると思われる。今後の動きに注目しておきたい。
Susumu Suzuki
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February 4, 2024
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生成AI活用でマネーロンダリング精査を効率化:Luci Copilot
マネーロンダリング対策には、様々なデータと多様な手段を活用したスクリーニングが行われていますが、犯罪の手口も時々刻々複雑化/巧妙化していることから、人手での精査が必要なアラートが増加し、結果、金融機関のマネーロンダリング対策現場には多大な負担がかかってます。この課題に対して、生成AIを使った要約/チャットでのQ&A/レポート作成機能等で担当者を支援するLucinity社のLuci Copilotの話題です。 ■ マネーロンダリング対策の課題昨今、金融犯罪に関するコンプライアンスに準拠するためには、複雑な手順が求められている。AIなどを使ったシステムによるスクリーニングも強化されているが、システムで判断が付きかねるケースはも増加しており、金融機関にとって精査作業の効率化が大きな課題となっている。 ・対象ケースに関する情報(送金元/送金先に関する様々な情報)は、社内外の複数のシステムにばらばらに存在しており、多様なデータベースやWebサイトにアクセスし情報収集しなければならない。 ・情報を収集した後、それらがどのような関連を持つのか(犯罪につながるのかどうか)明確でないケースがほとんどであり、調査を深めようとすればするほど時間がかかる。 ・システムで抽出したアラートには擬陽性(問題のない取引であるのに疑義があると誤認してしまう)も多く、結果人手による精査が必要なケースが増加している。機械学習を使ったスクリーニング・システムも開発されているが、まだ明確な効果は見られないようだ。 このため、金融機関の担当者は忙殺されており、精査の一貫性が損なわれたり、当局報告資料に不備が生じる等の悪循環に陥っている。 ■ Lucinity社のLuci Copilot2023年春にリリースされたLucinity社のLuci Copilotは、マネーロンダリングの精査業務を生成AIを活用して効率化するサービスだ。Luci Copilotは、社内のスクリーニング・システムで「アラート扱い」となったケースは関連する情報を社内外のシステムから収集し、1つの画面にまとめてスクリーニング担当者に提示する。 ・ケースの概要は生成AIを使って「Summary of Insights」としてまとめられる。担当者はなぜこのケースが「アラート」となったかを即時に理解できる。 ・Luci Copilotが収集した情報に対する質問をチャット・ボックスに入力すると、解説が提示されケースに対する理解が深まる(例:なぜビヘイビア・スコアが「ハイリスク」なのか解説がなされる)。 ・疑念があり当局報告が必要な場合、該当項目をチェックしてレポート作成を指示すれば、レギュレーションに準拠した報告書が自動作成される。 これらの機能の結果、アラート1件を処理する時間は、従来の20-25%程度にまで削減できるという。また、金融機関がスクリーニング担当者を養成する期間も大幅に短縮できると想定されている。...
Susumu Suzuki
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January 14, 2024
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デジタル・トランスフォーメーションの狙いはCXによる差別化:米国企業の共通認識
世界中の企業がデジタル機能の更なる活用(デジタル・トランスフォーメーション:DX)に取り組んでいますが、流通業や金融業など商品による差別化が難しい業種(コモディティ化された商品/サービスを扱っている)の場合、デジタルを使ったカスタマー・エクスペリエンス(CX)の向上が唯一無二の差別化施策だとの認識が一般化しています。この背景を解説してみました。 ■ 流通業から学ぶユーザー・エクスペリエンスの好事例として取り上げられるのがAmazon.comだ。Webサイトのナビゲーションや商品の選びやすさ、チェックアウトの簡単さなどがアマゾンに対する信頼感/安心感を生み、結果的に価格競争に陥らず多数のリピーターを獲得して事業を拡大してきた。アップルのiPhoneやそのApp Storeも同様と言えよう。 インターネットとともに成長してきた世代(ミレニアル世代/Z世代)が社会人となり、デジタル・サービスに対する期待値がこれまでの世代とは根本的に変わってきた。米国の大手金融機関では、デジタル時代の差別化施策はCX向上策でしかないとの認識のもと、各社がWebサイト/モバイル・アプリの改善を担当するデジタル・チームを立ち上げている。例えば、米国最大手のJPモルガン・チェイス銀行の場合、2016年に1500人体制のDigital for Consumer & Community Banking部門を発足させた(発足時の部門トップはアクセンチュアから、No2はYahoo.comから招聘)。 ■ CX向上のために必要な道具だてCX改善の第一段階では、Webサイト/モバイル・アプリのデザイン(ユーザー・インターフェース:UI)面の改善が行われたが、次第に顧客ニーズの変化や他社の新施策に対する迅速な対応が、CX競争で落ちこぼれない施策だとの認識が広がった。そのために必要となるテクノロジーには、以下などがある:・アジャイル開発環境(API/マイクロサービス/DevOpsなど)・顧客チャネルの同期化(Webサイト/モバイル・アプリ/店頭/コールセンターが顧客情報をリアルタイム共有できる情報インフラ)・パーソナライゼーション推進(データ分析に基づくWebサイトの調整や商品提案など)・マニュアル処理の排除/最小化による時間短縮(口座開設/ローン審査などの自動化) これらを突き詰めた結果、データ・マネジメント環境の全面再構築やコアシステムの入れ替え(クラウド化)に進んだ企業もある。 ■ CX対策に終わりはない昨今、流通業でも金融業でも、顧客が求める品質の高いサービスとは、スピーディーでスムーズな対応と同義語であり、それがブランドに対する信頼感/愛着を生みロイヤリティを高めている。20世紀には人的リソースで良好なエクスペリエンスを提供することが行われてきたが、これを如何にテクノロジーで行うかが21世紀のDXだと言えよう。 更に、エクスペリエンス向上の対象は顧客に留まらず、社員(Employee Experience)や国民(Citizen Experience)に対しても必須だとの認識が広がりつつある。バイデン大統領も2021年12月に「政府サービスに対するCX向上で国民の信頼を回復するための大統領令」を発布、CX改善は連邦政府の行政改革の柱にもなっている。ITソリューション・ベンダーでも、機能の追加や設定変更がモバイル・アプリのような使い勝手で提供される次世代コアバンキング・システム等の開発が進んでいる。 自動車業界では、ガソリンエンジンから電気自動車への転換を見据えた変革が進んでいるようだ。デジタル・トランスフォーメーションに関する取り組みは、1950年代から始まったビジネスにおけるコンピュータ利用の大きな転換点のようにも思えるがどうだろう。
Susumu Suzuki
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January 7, 2024
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API活用の近未来はERPバンキング?
2010年代後半、世界各地の規制当局は金融機関に対してAPI公開を義務化しました。当初、銀行はこのOpenAPIの流れに必ずしも積極的ではない印象でしたが、昨今では、顧客エクスペリエンス向上の視点から前向きな取り組みが行われています。ここでは、コマーシャル・バンキングにおけるトレジャリー管理サービスの新しいアプローチとしての、ERPバンキングをご紹介します。 ■ 銀行APIの活用に関する企業のニーズ2023年第三四半期、Datos Insightsでは、企業の財務部門/会計部門に対するグローバル・アンケート調査を実施したが(日本を含む11か国合計1000社)、金融機関とのAPI接続に関する設問に対して興味深い結果を得た。 Q1:融資手続きが迅速に行われるならば、データをAPI経由で金融機関に提供したいですか?A1:(ぜひ提供したい/提供したいの合計)会計データ=83%、CRMデータ=78%、ERPデータ=78%、受発注データ=76% Q2:自社で利用しているERPから、銀行が提供する金融サービス機能を直接利用できることは重要ですか?A2:(非常に重要/重要の合計)大企業93%、中堅企業93%、スモールビジネス81% 現在、金融機関におけるオープン・バンキングの取組みは、技術としてのAPI仕様を公開する形態が多いようだが、上記のアンケート結果からは、顧客企業はもう一歩踏み込んだ、APIを活用した統合ソリューションを求めていると思われる。 ■ Citizens Bankが提供するERPバンキング米国の準大手銀行で東海岸に支店網を展開するCitizens Bank(預金量1600億ドル(米ランキング13位)、支店網1000店舗)では、ERPへのプラグイン:ERPConnectの提供を開始している。ERPConnectは、Citizensが企業顧客に提供しているトレジャリー・マネジメント・サービスとペイメント機能をERPから直接利用できる仕組みで、買掛管理/流動性管理/取引照合などが可能となっている(現時点ではオラクルNetSuiteのみが対象:導入するとNetSuiteの「タブ」に「Citizens」が追加される)。 ERPは請求書を受領する毎にそこから必要な情報を読み込んで支払いデータを作成するが、ERPConnectを導入すると、各支払いデータは指定したタイミングで自動的に送金指示/小切手送付指示としてCitizens Bankへ送られる。一方、銀行からは決済が完了するまでの進捗が、企業のERPへリアルタイムで反映される。 ■ ERPバンキングの時代に?Citizens BankのERPConnectにより、ユーザー企業は自社ERPと銀行のトレジャリー・マネジメント用ポータルを使い分けることなく、ERPのダッシュボードだけで業務遂行が可能となる。ERPConnectの機能はまだ限定的だが、今後このようなERP/銀行サービスのインテグレーションが拡張され、更にAIを活用したデータ分析が加われば、財務部門の様々な業務の効率化やより効率的なトレジャリー・マネジメントが可能になると期待されている。 一方、機能拡充に加えて、サービスの価格体系や課金方式(ライセンス・フィー?/トランザクション・フィー?、顧客負担?/ERPベンダー負担?など)へのコンセンサスも必要になるだろう。Datos Insightsでは、2024年はERPバンキング元年になるのではないかと予想している。 (参照)・Datos Insights 2024年1月発行レポート「Top...
Susumu Suzuki
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December 26, 2023
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ウクライナ大手銀行PrivatBank:ロシア侵攻から4か月でクラウド移行
ウクライナ政府が、ロシア侵攻直後に戸籍や土地台帳などをアマゾンAWS環境へ移行したことは広く報道されましたが、同国最大の銀行:PrivatBankも同時期にコアシステムをAWSへ移行していたことが、2023年11月に開催されたアマゾンのクラウド・イベント:AWS re:Invent 2023のインタビューで明らかになっています。これに関する報道をまとめてみました。 ■ ウクライナ政府システムのクラウド移行ウクライナ政府は、ロシアの侵攻が始まった2022年2月24日当日にイギリスでアマゾンAWSチームとコンタクト、翌週には戸籍や土地台帳のクラウド移行が開始され、4か月後の6月には同国政府や大学のシステム、小中高生に対するリモート教育システムなどがAWSで稼働した。迅速な移行が可能だった背景には、ロシア侵攻の1週間前、同国議会が政府や民間企業が所有するデータのクラウド移行を認める法案を可決していたことがある。 ■ ウクライナ最大の銀行:PrivatBankもクラウドへウクライナの商業銀行PrivatBankは、1100支店/ATM5000台を所有し、1800万人(人口の40%)に金融サービスを提供する同国最大の金融機関だ(クリティカル・インフラ企業でもある)。本社はウクライナ南東部のドニプロ市(ロシア国境から250㎞、現在はロシア占領地域から100㎞未満)にあり、ウクライナ国内2か所にデータセンターを設けていた。 ロシア侵攻後、PrivatBankはウクライナ政府と相前後してAWSへの移行を開始、アプリケーション270種、データ4ペタバイト、オンプレミス・サーバー3500台を実質2か月でクラウドへ移行した。同行にはAWS技術者が4名しかいない状況でのスタートで、アマゾンの多大な支援があったにしろ、移行の道のりは平坦だったとは言い難いようだ。 PrivatBankのIT部門責任者Mariusz Kaczmarek氏は、「大急ぎで引っ越したので、新居のトイレにベッドが運び込まれたり、冷蔵庫がバルコニーに設置されたような状況だった」と例えている。アマゾンとの正式契約も数か月後だったようだ。 ■ AWS利用の現状と今後移行から1年半が経過した現在、PrivatBankはコア・システムをクラウド上で稼働させているだけなく、新たなサービスのリリースも開始している。クラウド移行のリスクは「銀行が存亡の危機に直面した状況で、許容される範囲だった」との理解だ。今後のシステム環境に関しては「戦争が終結してもオンプレミスに戻す必要性は感じない」という。 ウクライナにおける金融インフラや政府システム/国民に関するデータのクラウド移行は、戦時下でのサービス継続だけでなく、戦後の復興にも大きな助けとなることが期待されている。
Susumu Suzuki
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December 24, 2023
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銀行サービスに対するZ世代のニーズ:ミレニアル世代との違い
消費者の行動様式の違いを把握するため、様々な業種で世代別分類(ベビーブーマー/X世代/ミレニアル世代/Z世代)が用いられます。昨今、Z世代(1990年代後半から2010年生まれ)が社会に出る年代となり、ミレニアル世代との違いが散見されることから、金融業界では、両者を「デジタル・ネイティブ」とひとまとめにせず、それぞれに合わせた事業施策を考える必要があるとの見方が出はじめています。 ■ 年齢別行動パターン調査日本では、ミレニアル世代の割合は人口の17%、Z世代は15%と低いため、金融機関はこの世代をまだ主要顧客とみなしていないようだが、米国はその割合がそれぞれ22%/21%であるためか、この世代への対応が大きなビジネス課題となっている(グローバルでは、24%/34%と更に高い)。 昨今、ミレニアル世代が40歳代に突入する一方、1990年代生まれのZ世代が社会の一員に加わりはじめ、その行動様式の違いが認識されるようになった。Z世代は、まだティーンエージャーから20歳代半ばだが、デジタル・ネイティブであるからか各種オンライン・アンケート調査へのレスポンスが良く、その意識を把握しやすい。 (ご参考:米国における世代の定義)・ベビーブーマー:1945年から1964年生まれ(2023年現在、60歳前後から70歳代)・X世代:1965年から1980年生まれ(43歳から58歳)・ミレニアル世代:1981年から1995年生まれ(28歳から42歳)・Z世代:1996年から2010年生まれ(13歳から27歳) ■ 銀行利用に関するアンケート調査Datos Insightsでは、2022年第四四半期、米国消費者3000人に対し銀行利用に関する調査を実施し、その結果を世代別に集計した。そこでは、従来の認識である「ミレニアル世代/Z世代はデジタル・チャネル利用が多い、ベビーブーマー/X世代は店頭利用が多い」とは言い切れない興味深い結果が得られた。ここではそのいくつかをご紹介したい: (質問1)新規に銀行口座を開設する際、デジタル・チャネルを利用したか?・ミレニアル世代の55%と比較し、Z世代は25%と圧倒的に低かった(=支店利用が多い)・もちろん、銀行口座開設が生まれて初めてだったケースや、モバイル・アプリの使い勝手が悪く、途中で分からなくなった可能性もある。 (質問2)デジタルバンク(=支店のないネット銀行)をメインバンクとしているか?・Z世代の回答は11%と、ミレニアル世代の18%、X世代の14%よりも低かった。・前述のデジタル口座開設と関連しているかもしれないが、Z世代でも従来型銀行のシェアが高い。 (質問3)貯蓄する目的は何か?・Z世代では「家を買う」が51%を占め、ミレニアル世代の37%よりもかなり大きい。・一般論として、Z世代はプライベート重視/社会秩序重視と言われているが、これもその表われかもしれない。 これらの結果は更なる分析が必要だが、ここでもミレニアル世代とZ世代を分けて考える必要性を示唆しているように思われる。 ■ データを活用したパーソナライゼーション新規顧客を獲得し定着させるには、良好なカスタマー・エクスペリエンスが最大の武器になると考えられている。ただ更なる差別化やクロスセルのためには、データ分析に基づいたサービスのパーソナライズが欠かせず、更にそれをリアルタイムで提供する仕組み(Webサイト/モバイル・アプリの改善に加え、店頭/コールセンターとの連携を含めたオムニチャネル・インフラ)が必要になる。 最後に、金融機関ではないが、最近経験したパーソナライゼーション事例をご紹介したい。 筆者は、11月にApple.comでiPhoneを購入したが、その際「おまけ」としてアップル・ギフトカードをもらった。12月に入って、このギフトカードに関する問い合わせでAppleのカスタマー・サービスに電話したが、最初の自動音声応答は「頂戴したお電話番号から推測するに、11月に購入されたiPhoneの件でしょうか」だった。びっくりするとともに「パーソナライゼーションもここまで来たか」と思った。金融機関もZ世代のメインバンクになるためには、このような方向をめざす必要があると思うがどうだろう。 (参照)・Datos Insights(ダトス・インサイツ)2023年9月発行レポート「What Bankers Should...
Susumu Suzuki
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November 25, 2023
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サイバーセキュリティ専門家がボランティアとして市町村のサイバー防衛を支援
サイバー防衛体制が不十分になりがちな小規模の市町村や小中高校のレジリエンシー強化策として、ミシガン州やウィスコンシン州などでは、サイバーセキュリティの専門家をボランティアとして組織化し無償で支援する取組みが行われています。 ■ サイバーセキュリティ・ボランティアの組織化世界的な規模でサイバーセキュリティの専門家が不足しており、給与水準も高止まりしている。このような専門人材の不足は、(給与水準が低くなりがちな)中小規模の企業や政府機関にとってはより大きな問題であり、規模が小さい地方自治体であるほど深刻度は高い。犯罪者もその事実を把握し、サイバー防衛の手薄な地方の自治体や学校をターゲットとしてランサムウエア攻撃を仕掛けているようだ。一方、消防団や救急体制では、一部の機能をボランティアが担ってきた歴史があることから、サイバー対策にもボランティアを活用する取組みが一部の州政府で行われている(現在15州が実施中/計画中)。 最初にボランティアの組織化を始めたミシガン州では、2013年、州政府に「Michigan Cyber Civilian Corps(MiC3)」を創設、政府機関や民間企業のサイバーセキュリティ技術者をボランティアとして組織化した。登録者には、インセンティブとして最新のサイバーセキュリティ・トレーニングや認証資格試験を無償で提供、ボランティアの勤務先がバックアップしてくれることも狙っている。同州では、州政府が非常事態宣言を出すような大規模なインシデントの支援を想定、現在60数名が登録しており、それなりの出動実績があるという(詳細未公表)。 ■ ウィスコンシン州の場合2014年にCyber Response Team (CRT)をスタートさせたウィスコンシン州では、ミシガン州よりも広範囲な取り組みを行っている。CRTは、州政府のエマージェンシー・マネジメント・チーム(ハリケーンや大雪などの自然災害時に出動する)の一部と位置付けられ、出動させるかどうかの意思決定も同じ手順が使われる(問題が軽微な場合、アドバイスだけの対応もある)。サイバー・インシデント支援に加え、サイバー対策アセスメントや予防策構築支援も進めているという。 登録済みのボランティアは450人を超えており、多くは州内の地方自治体のサイバーセキュリティ専門家だという(中には支援を受けた市町村のサイバー担当者がボランティアとして登録したケースもある)。出動回数は、2022年は19件だったが、2023年は10月までで27件(小中学校高校16件、大学2件、市町村政府9件)と増加傾向だ。技術者がボランティアのため、問題が解決するまで同じメンバーがサポートできるとは限らないが、チームとして継続的/効率的にサポートするノウハウも蓄積してきたという。 ミシガン州と同様、登録者のトレーニングに力を入れ、最新スキルの獲得に努力している。昨今ではサイバーセキュリティ・アセスメント専門のメンバーも養成している。 ■ 様々な課題もこのような成功事例を背景に、オハイオ州、オクラホマ州などでもボランティアを組織化する取組みを始めたが、懐疑的な州や識者が多いことも事実である。例えば以下のような問題点が指摘されている。 ・短期的な人材不足/予算不足への対応策としては良いが、長期的にはボランティアを中心に責任ある取組みを行うことは無理が多い。・応募人材のバックグランド・チェックは行われているが、悪意を持ったハッカーなどが入り込む可能性もある。・少数精鋭の場合は、技術力が確保できると思われるが、登録者が増えれば(=ジュニア・クラスの技術者が増えれば)トレーニングだけではスキルが追いつかなくなるのではないか。・複数のインシデントを同時にサポートする場合、必要なスキルを持つ人間を迅速かつ適切に配置できるのか。 地方の小規模な市町村ではサイバー予算が限られる中、リスクを放置するよりはマシだとの見方もある。ボランティア・ベースのサイバーセキュリティ対策がどのように進展していくのか、今後の動きに注目しておきたい。
Susumu Suzuki
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November 18, 2023
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ここまで来たデジタル・トランスフォーメーション(DX):27行ヒアリング調査
Datos Insights社では、金融機関のExecutiveを中心にRetail Banking Executive Councilを組織化していますが、2023年第二四半期にメンバー企業27社にお集まりいただいた会合で各社のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の取組み/進捗状況を伺いました。その結果をレポート:Steppingstones to Digital Transformation: Banks Assess Their Progressとして発刊しましたが、ここではその概要をご紹介します(レポートでは各取組みに活用されている主要ソリューションも紹介しています)。 ■ デジタル・トランスフォーメーションに関する質問内容Retail Banking Executive Councilは、金融機関を中心とした会員組織で、年4回の会合(Face-to-face/バーチャルあり)を開催し様々なテーマの情報交換を行っている。企業規模は様々で、金融業界全体の方向感を理解する貴重な場ともなっている。 2023年6月に実施した会合では、デジタル・トランスフォーメーションに関する質問を準備し各行の状況を伺った(匿名回答)。主な質問項目は以下のとおり: (1)デジタル・サービス(モバイル・アプリ/Webサイトでの金融機関の全サービス(口座開設なども含む)の提供状況)(2)システムのモダナイゼーション(アジャイル・バンキングを実現するための手法/ツール(API/マイクロサービス/DevOps/アジャイル開発など)の導入状況)(3)カスタマー・エクスペリエンス改善(パーソナライゼーション/複数チャネルの同期化など)(4)データ活用に関する取り組み/データ分析環境の整備(顧客の行動分析/嗜好分析などの実施状況)(5)業務処理の効率化/自動化(口座開設/ローン審査など)(6)イノベーション/アジャイル・カルチャーの導入(システム開発面だけではなく、商品開発手法や意思決定プロセスなども含む) その他、コア・システムの入替え計画やAPI/マイクロサービス活用戦略、従業員エクスペリエンス向上策、データ・アグリゲーション、CRMなどの取組みも聞いた。...
Susumu Suzuki
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November 11, 2023
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バイデン政権の「AIに関する大統領令」概説
バイデン政権が10月30日に発表した「AIに関する大統領令」は、AIにまつわる様々な懸念に対して政府の対応策/方向性を示したもので、日本でも広くメディアで取り上げられました。ここではその内容を解説するとともに、民間企業への影響に関する論議にも触れました。 ■ 大統領令とは政府の様々な方針は、議会が法案を審議し法律となって初めて強制力を持つが、大統領令は大統領が独自に出せる命令である。即効性はあるが、牽制機能として議会や最高裁が無効にすることも可能である。そのため、実際の大統領令は大統領が希望する方向性を示す範囲に留まることが多い。大統領令で示された方針に沿って議会が法律を整備、各省庁がガイドラインを発行し、施策に必要な予算を要求することで(予算案は議会での承認が必要)大統領が示した方向が具現化されていく。 今回発表された「AIに関する大統領令」も、国の安全保障に関する部分には「国防生産法」が適用されるが(=戦時の特例として大統領権限で強制できる)、それ以外は、今後ガイドラインや技術標準が整備され、法案が立法化されて実現していくと考えられる。 ■ 「AIに関する大統領令」の狙い10月末に発表された大統領令は111ページに及ぶ膨大なもので、これまでのAIに関する論議の集大成である。ここでは、示された方針を5つに分類してみた。 (1)国民の安全/権利の尊重、AIが国民生活の脅威になることの防止AIアルゴリズムが、差別や不公平、人権侵害、プライバシー侵害などを生じさせない事を謳っている(故意の場合/想定外の副作用双方を含む)。対策としては、AIを開発する企業に対し発売前の安全性テストの実施とテスト結果の政府への報告を義務付けることを表明している。また、AIによるニセ情報の拡散防止や著作権侵害対策、AI活用による雇用環境変化への対応(スキルチェンジの支援)にも言及している。 (2)安全保障面からのリスク回避/悪影響の防止前述(1)を国家の視点から捉え、米国のクリティカル・インフラやサイバーセキュリティ対策がAIにより侵害されないことを謳っている。安全保障にかかわる部分の対策(安全性テストと結果報告)に対しては「国防生産法(=大統領権限で民間企業に命令を出すことが可能)」を適用して法的拘束力を持たせた。 (3)AIに関するレギュレーションの整備(国内/グローバル)世界各国でAI利用に関するレギュレーションに関する論議が始まっているが、ここでは、米国が国際的な枠組みを提案し推進することで、グローバルをリードする立場になることを表明している。 (4)AI技術と関連産業の育成AI技術を活用し米国の優位性を推進する施策として、AIに関するR&Dの実施(AI技術の機能拡張やAIを使ったイノベーション、プライバシー保護技術など)を表明している。医療分野や環境保護/気候変動対策/教育改革などへのAIの応用にも助成金を出すとしている。AIに関する高度人材の受入れ積極化も表明している。 (5)米連邦政府省庁でのAI活用連邦政府内におけるAIを活用した行政改革/DX推進/国民サービス向上を謳っている。政府各省庁でのAI導入をスピードアップするため、AI利用ガイドラインや予算申請ルール/購買ルールなどを整備する。 ■ 大統領令に戻づく施策大統領令では、前述の方針を具現化するため、関係省庁に対しては各種ガイドラインやルール作りを、立法府(議会)に対しては法律の整備を求めている。 (行政府への指示)(1)技術標準/テクニカル・ガイドラインの整備米国標準技術研究所(NIST)に対し、AIの安全確保のため(1)AIシステム開発に関する安全確保ガイドラインと、(2)各省庁でのAI利用/リスク管理に関するガイドライン、(3)前述の発売前テストに関するテスト基準作りを指示している。商務省へは、AIで作成したコンテンツに「透かし」を付与することへのガイドライン作りを要請している。 (2)国土安全保障省(DHS)におけるAI安全保障委員会の設置連邦政府内省庁のサイバーセキュリティ対策やクリティカルインフラ保護に対するAI利用は、事前テストが必要となるが、テストの実施はDHSが主幹することになるようだ。 (3)各省庁でAI活用を進めるための各種ガイドライン作成(体制構築/予算化/購買手順など)米行政管理予算局(OMB)では、大統領令発令直後の11月2日にAIガバナンスやリスク管理等に関するガイドライン案「Advancing Governance, Innovation, and Risk...
Susumu Suzuki
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October 29, 2023
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AIの活用:ウェルス・マネジメント業界の場合
昨年末のChatGPTのリリースをきっかけに、ビジネスにおけるAI活用論議が活発化しています。ここではウェルス・マネジメント業界でのAIに関する認識をヒアリング調査と事例研究からまとめてみました。 2023年10月発行のレポート:Accelerating Generative AI Into Wealth Managementも併せてご参照ください。 ■ AI活用に関する調査Datos Insightsでは、ウェルス・マネジメント企業18社をResearch Council Memberとして組織化しており(ワイヤハウスやその他大手/中堅Wealth Management企業やRIA等がメンバー)、2023年第三四半期にメンバー企業各社に対してAI活用に関する調査を実施した。 それによると、これまでバックオフィスの効率化や不正防止分野が中心だったAIの活用は、昨今、フロントオフィスでの利用(フィナンシャル・アドバイザーの生産性向上やカスタマー・エクスペリエンス改善、顧客とのリレーションシップ・マネジメントへの応用、マーケティングの精度向上など)に注目がシフトしている。ただ、投資に見合う生産性向上が期待できるのかは見極めづらく、適正な予算規模も分からない状況である。生成AIに関しても、トライアルは行われているものの、顧客が直接使うには時期尚早との認識だ。 ■ 事例ここではウェルス・マネジメント企業のフロントオフィスにおけるAI活用の事例を集めてみた。 (1)メリルリンチ:Client and Advisor Insights2018年、モルガンスタンレーがAIを使ってアドバイザーの行動指針を示すNext Best...
Susumu Suzuki
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