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20年をかけDXを成就したUPS:配送ルート最適化成功のカギは「トップの認識」と「企業カルチャー」

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米国最大の宅配会社UPSでは、2003年に配送ルート最適化の研究に着手、10年後の2012年からシステム導入を開始しました。その後も改善を続けた結果、現在では全世界の配送トラック12万台が走行距離削減(=燃料節約/CO2排出削減)という大きな成果を享受しています。デジタル・トランスフォーメーションの先駆者:UPSの取り組みをまとめてみました。


■ 配送ルート最適化システム:ORION
米国の運送会社UPSは、売上規模910億ドルとFedExを凌ぐ米国最大の宅配企業だ。配送トラック12万台がグローバル220か国で毎日2000万個以上の荷物を配達している。2003年、同社ではデータ分析による配送ルート最適化システム:ORION(On-Road Integrated Optimization and Navigation)の研究開発に着手した。

まずは、ベテラン運転手がどのように走行ルートを決めるかをヒアリング、2008年にはモデル拠点11箇所を選定して、配送トラック1500台に各種センサーや車載GPSを搭載、収集したデータからUPS独自の経路地図作成を開始した。最適経路の計算には、(運転手のインプットによる)信号待ちが少ないルートなど合計2億5000万箇所にのぼる独自の道路情報も活用されている。アルゴリズムは、現場からのフィードバックも加味して改善を続け、ベテラン・ドライバーよりも効率の良いルート選定が可能となった。

2012年に始まったORIONの導入は、2017年には全米展開を完了(トラック5万5000台)、この時点でトラックあたり1日平均8マイル(約12㎞)の走行距離削減が達成できたという。その後は、カナダや欧州への展開を進める一方、米国ではAIを活用した動的最適化機能を持つ新バージョンの開発に着手した(Dynamic ORION:道路混雑の状況や顧客からの配達変更/集荷要望にリアルタイムで対応できる。当初版は、トラックが朝配送センター出発前に選定した最適ルートで走行し、集荷要望等は運転手に電話連絡していた)。2021年夏には米国内でDynamic ORIONの導入を完了、更に平均2-4マイル/1日/トラックの削減となった。


■ 導入が成功した理由
走行ルートの最適化(いわゆる「巡回セールスマン問題」)は、昔から広く知られた課題だが、全組み合わせを比較するには大型コンピュータを活用しても膨大な時間が必要となる。UPSのイノベーションは、実用的なアルゴリズムを作成し、それを全社に定着させたことだろう。

UPSには、もともと「定量的に物事を考える(Quantitative Company)」「継続的な改善を良しとする(Constant Improvement Company)」という企業カルチャーがあった。1990年代後半の時点で運転手は既にGPS付きハンドヘルド端末を使っていたが、経営陣は「運転手の頭にある経路選択ノウハウを集約してデータベース化できれば、最適なルート選定モデルを作れるはずだ」との認識があり、10年以上に渡るプロジェクトを後押しした。

現場の運転手にも多大な協力をもらっている。「自分の直感とは違うルートが指示されてもそれに従う」「工事による道路閉鎖など、ルート決定に影響する担当地域内の情報を随時インプットする」など現場の協力が得られたことで、配送ルートの精度が向上して成果が上がり、それがORIONの信頼を高めるという好循環が生まれた。Dynamic ORION導入で直感と異なるルートが指示されるケースが増えているが、運転手のORIONに対する信頼感がなければとても成立しない。


■ 今後の発展
現在、ORIONがカバーする分野は、配送センターから配達先まで(いわゆる「ラスト1マイル」)だけのため、今後のシステム開発目標は「配送センター間(都市間)のルート」と「配送センター内の分類作業/積込み作業の最適化」を含めた輸送ネットワーク全体へと拡大している。その後は航空機による運送ルートも含めるという。この段階に達すると、冬場の悪天候による空港閉鎖やハイウエーの積雪による影響などにも対処できるようになるはずだ。

UPSの20年を超えるプロジェクトの成功事例からは「トップの長期的でブレない後押し」と「新しい取り組みに対する現場の理解/協力」が車の両輪だったことが分かる。同社では「数万人の運転手にORIONを利用してもらうには、システム開発の何倍もの時間と忍耐が必要だった」としている。それを達成したUPSの取組みに賛辞を送りたい。