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Datos Insights experts weigh in on critical topics and trends in their industry verticals.

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November 24, 2024
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マスターカードが導入したAIによる不正検知システムの仕組み
マスターカードでは、本年2月、AIを活用した不正検知システムの導入を発表しましたが、その後のメディア・インタビューなどでは、不正検知のアルゴリズムや、AIプロジェクトに対する経営判断ステップ等にも言及しています。その概要をまとめてみました。 ■ AIで不正検知を向上2024年2月、マスターカードでは、AIを活用した不正検知システム:Decision Intelligence Pro(DI Pro)の導入を発表した。不正検知を平均20%改善し(場合によっては4倍)、フォルス・ポジティブ(正規の取引を不正と誤認するケース)も85%減少させながら、50ミリ秒内の認証が可能になるというものだ。 不正検知のアルゴリズムに関しては、このプレスリリースでは「自社開発の回帰型ニューラル・ネットワーク」に、年間1000億回を超えるカード取引データや取引履歴を使った機械学習を行い、該当カードが該当マーチャントで買い物をする可能性を算出すると説明していた。 ■ Decision Intelligence Pro(DI Pro)の仕組みその後の報道では、DI Proの詳細への言及がある。そこでは、Mastercardが保有しているデータの分析に加え、Third-partyの協力を得てダークウェブにある漏洩データ売買サイトにアクセス、売買されている不正漏洩データの内容(多くは16ケタのカード番号の一部(下4ケタだけ等))を入手し、漏洩した可能性が高い16ケタの番号をAIを使って想定/復元する。 不正の発生率が高いECサイトは統計的に把握できているので、これらのマーチャントから漏洩した可能性のあるカード番号の承認リクエストがきた場合(ヒートマップのようなグラフィック・ソリューションを使って判断するという)、不正の可能性が高いと判断するアルゴリズムを作成し、検知精度を高めつつ応答時間短縮を実現したと説明している。 ■ AIを活用するかどうかの経営判断原則マスターカードでは、AIの様々な可能性を探るため、多数のPoCを行っているが、そこで有望だと思われた案件に対する経営判断のステップも興味深い。まず第一段階として、法務部門/プライバシー保護部門/営業部門を含む「AIレビュー委員会」が開催される。そこでは、AI活用のメリットと法的リスクやバイアスが発生する可能性を論議し、プロジェクトを進めるかどうかが判断される。 第一関門での承認後、第二段階として「テクニック・レビュー」が実施される。ここでは、効率化の効果(ROI)やスケーラビリティがチェックされるが、スケーラビリティが見通せない場合は、プロジェクトはその場で中止される。スケーラビリティの確認が有望なアイディアを失敗させない秘訣だという。テクニカル・レビューに合格した案件は、既に経営判断がなされているので、即座に開発に着手する。 同社では、DI Pro以外にもAIを活用した様々なプロジェクトを推進中だとしている。AI先進企業としてのMastercardに引き続き注目しておきたい。
Susumu Suzuki
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November 8, 2024
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住民からの問い合わせをチャットGPTで対応:MD州モンゴメリー郡のMonty2.0
2024年5月にリリースされたメリーランド州モンゴメリー郡政府の住民サポート・チャットボットMC311の話題です。コロナ・パンデミック時に導入したチャットボットをChatGPTを活用してアップグレード、住民にも好評のようです。フィードバック機能を設けて継続的なエクスペリエンス改善をめざしています。 ■ メリーランド州モンゴメリー郡政府のチャットボット導入ワシントンDCに隣接するメリーランド州モンゴメリー郡は、DCのベッドタウンであるとともに、国立標準技術研究所(NIST)やサイバーセキュリティ・センターオブエクセレンス(NCCoE)など連邦政府のテクノロジー関連機関もあり、サイバーセキュリティやバイオテクノロジー分野のスタートアップ企業も多い。また25歳以上の住民の半数以上が大学卒以上で、所得水準が高い地域でもある。 モンゴメリー郡政府は、2020年のコロナ・パンデミック時に311コールセンター(注)への問合せが殺到したことから、2021年1月に電話の待ち時間短縮をめざしてチャットボット「Monty」を稼働させた。Montyは、郡政府WebサイトのFAQをチャット・インターフェースで参照するもので(音声/文字双方での利用が可能)、電話の待ち時間短縮(5分から2分へ)や待ちきれずに電話を切ってしまう件数の削減には効果があったが、使い勝手の面からは必ずしも高い評判ではなかった。 (注)米国のほとんどの地方自治体が緊急通報用の911番に対して、非緊急の問い合わせ電話:311番を設けている。提供しているサービスは、日本の地方自治体の「市民相談コールセンター」や「住民サポートセンター」等に相当すると考えて頂ければと思う。 ■ Monty2.0へのアップグレード2023年初からのChatGPTへの注目の高まりを受け、モンゴメリー郡政府では、2023年5月に生成AIを活用したチャットボットMonty2.0のPoCを開始した。これまでのMontty1.0と比べ、回答できる範囲を大幅に拡大し住民からのほとんどの問合せに対応できることを目指した。また140か国の言語への自動翻訳機能も付加されている。テクノロジー面は、ChatGPTとマイクロソフトのCognitive Serch Serviceが活用されている。 Monty 2.0は、10か月後の2024年3月に正式リリースされ、利用件数はMonty1.0時代の2倍以上に増えている。市民とのやり取りの最後にサムアップ/サムダウンのアイコンをクリックしてコメントを書き込むフィードバック機能も好評だ。郡政府は、この機能により市民の満足度とチャットボット改良につながるコメントを収集し、ノレッジベースの拡張やユーザーエクスペリエンス改善へのインプットとしている。2024年10月からは、住所など、住民が入力した情報に基づく回答(ゴミ収集日の案内や投票所の場所など)も可能になった。 ■ アジャイル/スプリントでシステム開発Monty2.0の開発は、マイクロソフトのサポートを得ながらすべて職員により構成されるアジャイル・チームが担当した。今後の機能追加計画は、311コールセンターとの連携(現在はチャットボットとコールセンターが独立しており、チャットボットで問題が解決しないと、改めて電話をかけ直す必要がある)や、チャットボット経由での各種書類(申請書など)のアップロード機能、GIS情報との連携(チャットボットの回答を地図情報として提供できる)などがあがっているという。 モンゴメリー郡政府では、Monty2.0の利用推進とともに、住民に対して積極的なフィードバックを呼びかけており、更なる住民エクスペリエンスの改善を進めるとしている。
Susumu Suzuki
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October 30, 2024
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フィナンシャル・アドバイザーに如何にテクノロジー・ツールを利用してもらうか
ウェルス・マネジメント(WM)企業は、フィナンシャル・アドバイザー(FA)の業務効率化とサービスの質の向上をめざし様々なテクノロジー・ツールを導入していますが、これらがFAの間で広く利用されているかというと、必ずしもそうとは言い切れないようです。一方、テクノロジー利用が浸透しているWM企業の方が業績が良いことも事実です。Datos Insightsでは、FAに対するアンケート調査やヒアリング結果を分析し、どうすればFAのテクノロジー利用が活発になるかをレポート:Solving the Mystery of Technology Adoption, Part 2: Identifying Obstacles and Solutionsにまとめました。 ■ テクノロジー・ツール利用と企業業績WM企業のFAに対するアンケート調査によると、広く利用されているテクノロジー・ツールのトップ3は、「顧客向けレポート作成ツール」「フィナンシャル・プランニング・ツール」「CRM」であった。またテクノロジー・ツールがFA間に浸透している企業のほうが、効率的で事業の伸びも早く、顧客満足度も高いことが分かった。ただ、すべての企業で全ツールが100%利用されているケースはほぼない。一方でツールを使わない理由としてFAからは「使うと良いことは分かっているが使い方を習熟する時間がない」という意見が多かった。 ■ 「習得する時間がない」を分析する「時間がない」という意見だからといって、テクノロジー・ツールのトレーニング時間を増やせば問題が解決するかといえばそう単純ではないだろう。アンケート調査に加えてヒアリングを実施し、その背景を分析してみた。 (変化に対する抵抗とツール導入に対する価値の説明)・ツールを使いこなしていないと認識しているFAも、日々の業務に支障をきたしていないケースが多々ある。事実、ツールを使っているFAと使っていないFAの業務処理時間も大きな差がない。・ツールを導入するメリットを「業務の効率化」とだけ説明すると、FAのモチベーションにつながらず抵抗勢力となってしまう。導入することの付加価値(例:顧客向けアドバイスの質の向上や、ツール導入で得られる新たなデータなどFA自身に直結するメリット)を十分に説明する必要がある。 (ツールは使いやすいか、機能は充分か)・ツールがFAのビジネス・プロセスにあっていない場合や、ツールを使った結果、顧客へのサービスが変わってしまう可能性をFAが心配し、ツール利用のモチベーションが上がらないケースもある。・ツール個別の機能や使い勝手だけでなく、ツール毎の連携が悪かったりデータの更新タイミングなどに問題があるケースもある。これらを解決しないとFAの満足度が上がらず利用が伸びない。 (トレーニングが画一的)・多くのWM企業で新しいツールを導入する際にトレーニングを実施しているが、画一的なケースが多く、個別FAの事情に合わせたトレーニングの実施が必要な場合もある。・FA毎の業務プロセスの違いだけでなく、個人の学習パターンが異なることにも配慮が必要だろう。習熟度に合わせて一部の機能だけでも活用できるデザインになっていることも重要だろう。・また、ツールを使い慣れるまでの継続的なサポート体制も必須である。...
Susumu Suzuki
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October 28, 2024
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欧州のT+1決済は2027年度に実施?
米国の証券決済は2024年5月から翌日決済(T+1決済)に移行しましたが、それを受けて欧州でもT +1の導入機運が高まっています。10月15日の欧州証券市場監督局(ESMA)の発表でも英国やスイスとタイミングを合わせ2027年度実施に向けた検討が進んでいるようです。 ■ 米国でのT +1移行はスムーズに完了米国の証券決済は2024年5月28日から翌日決済(T+1決済)に移行した。実施直前まで様々な懸念が示されていたが、想定以上にスムーズな移行ができ、資本市場参加者が清算機関(NSCC)に預ける預託金も20-25%程度削減できた模様だ。ただ、各社は決済が早まっても正確を期すために体制強化などを行ってきたことから、今後はこれらの自動化などコスト削減策が必要となる。 ■ 欧州でもT +1導入の機運高まるEUでは、2023年に「European T+1 Industry Task Force」を設け、T+1導入の検討を進めてきたが、米国の移行を受け導入機運が高まっている。10月15日には、欧州証券市場監督局(ESMA)、欧州委員会(European Commission)、欧州中央銀行(ECB)が共同してT+1導入に関する今後の方向性を発表した。発表内容の概要は以下のとおり(タスクフォースの見解も含む): ・欧州各国の証券決済に関するレギュレーションや仕組みが異なることから課題は多いものの、T+1移行には大きなメリットがある。・欧州の各CSDは、技術的には既にT+1対応が可能・技術論に加え、T +1をサポートするレギュレーションの変更にも時間が必要だが、24か月から36か月で実現可能と考えられる・米州でも行われたように地域全体の同時移行はメリットが大きい。そのため英国とスイスとも歩調を合わせたい(米州では、米国と同時にカナダ/メキシコ/ジャマイカ/アルゼンチンがT +1移行)。・このあと正式なレポートを作成し欧州議会で説明し、強制力のある議会決定に進みたい。 今回のアナウンスでは具体的な移行日程は明示されていないが、既にイギリスが2027年末までのT+1移行を正式表明しており、事実上EUも2027年末を目指したと理解されている。 ■ APACでの地域同時移行はなるかアジアに目を転じると、インドは既にT+1を実施しており、2024年3月からは25銘柄に限定したT+0の試行が開始されている(インド国内のリテール市場のみが対象)。オーストラリアも決済システムの更新を済ませ、最短2026年にPhase1移行が出来ないかの検討がなされている。ニュージーランド市場は、オーストラリアと二重上場の銘柄が多いだけに同一タイミングとなる可能性が高い。これらを受け、今後日本でも証券取引のT+1論議が活発化するように思われるがどうだろう。
Susumu Suzuki
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October 28, 2024
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国務省のDigital Transformation:AIチャットボットによる外交官支援
米国務省(外務省に相当)がOpenAIと提携、生成AIを利用したチャットボットによる文書検索システムを導入して外交業務の効率化を推進している話題です。 ■ 国務省でのAI活用2023年10月、米国務省ではAIを活用して外交活動を強化するとの方針のもと、エンタープライズAIストラテジー(EAIS)を発表しAI活用の方針を打ち出した、EAISでは、大使館など海外公館を含むほとんどの部署がAI利用の対象だとし、セキュリティを確保したテクノロジー・インフラの構築、情報源の明示(透明性確保)、データに基づく意思決定を定着させるためのカルチャーの醸造などを謳った。 そのフラッグシップ・プロジェクトとして、生成AIを利用したチャットボットによる文書検索システムの開発が開始され、2024年10月時点でアルファリリースとして各部門での利用が始まっている。現時点で270の外交業務でAIチャットボットが利用され、グローバルの職員8万人のうち1万人が利用しているという。 ■ AIチャットボット導入プロジェクトの概要国務省では、数年前から省内で利用する文書/データを整備するためのプラットフォーム構築プロジェクトが始まり、2年前からは部門毎にデータ整備専任スタッフを設ける取組みが行われていた。対象となる文書/データは、過去の外交文書や意思決定の要となる国会での論議/決議/報告書などに加えて、メディア情報など外部データも取り込んでいる。 AIチャットボット・プロジェクトのシステム構築/推進にあたり、国務省内では、CIOを中心にサイバーセキュリティ責任者(CISO)、外交テクノロジー責任者(暗号通信などを司ると思われる)、更に昨今任命されたChief Data &AI Officerが密接な連携体制を敷いている(週次のミーティング等)。外部ベンダーとしては、マイクロソフトがクラウド環境AzureとOpenAIを提供し、Palantirがユーザー・インターフェースを、デロイトがChatbotのデザインを担当している。生成AIの検索機能や要約機能に加え(他言語情報に対して)翻訳機能も活用されている。外交活動は、内外との対話が行動の中心であるが、AIチャットボットを活用することで、その準備段階で必須な文書を読む/理解する/書くの部分を効率化することで、対話に割く時間を増やすことが可能になるとしている。 ■ プロジェクトは現在進行形現在AIチャットボットは一部の現場にリリースされており(アルファリリースと表現されている)、ソフトウエアやセキュリティの評価とともに、現場からのフィードバックを得ながらチューニングを繰り返しているという。中長期的には、情報を根拠に外交活動を進めるカルチャーを醸造する必要があると認識されており、そのためのトレーニングも並行して実施していくという。 ブリンケン国務長官も巻き込んだ国務省が全力投球するAI活用プロジェクトだが、その成果に注目しておきたい。
Susumu Suzuki
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August 30, 2024
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CMEグループがグーグル・クラウドへの移行を発表
2024年6月、米国の先物取引所最大手であるCMEグループとグーグルが先物取引/オプション取引をクラウド環境へ移行すると発表しました。導入時期は2025年以降と思われますが、取引所取引の事業環境が抜本的に変わる可能性もあり、現時点での反響をまとめてみました(この日本語ブログは、弊社アナリストのJames Wolsternholmeがまとめたブログ「Speed and Scale, CME and Google—Take Your Pick」を参照しています)。 ■ CMEグループのクラウド移行CMEグループとグーグルは、シカゴ郊外にあるCMEグループのデータセンター・キャンパス内にグーグルのプライベート・クラウド・リージョンを建設、CMEのトレーディング機能とコロケーション環境をクラウド移行する。 CMEは、2021年にグーグルからの出資を受け入れてデリバティブ市場のシステム・インフラ革新を加速させるとしていたが、今回のデリバティブ取引のクラウド移行計画はその具体策となる。これまでクラウド環境は低レーテンティー取引の信頼性を損なうと考えられてきたが、今回のCMEとグーグルのクラウド移行計画はこれを覆すもので、その成果が注目される。 ■ HFT以外の市場参加者にもメリットデリバティブ取引のクラウド移行が実現すれば、HFT(高頻度取引)事業者にはスピード面/コスト面から大きなメリットがあるだけでなく、HFTを行わない一般ユーザー(バイサイド企業のトレーダーや中小規模の機関投資家など)にとっても、取引のスピードアップとHFTがもたらす流動性を享受できるため、サイズの大きな注文でもマーケット・インパクトを与えることなく/少なく、迅速に実行できるとの期待が高い。 また、CMEは、2021年にOTC市場のポスト・トレード・ソリューションを提供するIHS Markitとジョイントベンチャー:OSTRAを構築しFX/金利/株式などの取引から決済までを一体化して提供するとしていた。今回の取引のクラウド移行には、OSTRAのポスト・トレード・サービスも組み合わされるものと思われる。 ■ クラウド活用によるビジネス環境変化の可能性昨今、欧米のバイサイド企業では、多様なマルチアセット取引を効率的に行いたいというニーズが高まっているが、クラウド環境はこの面でも期待が大きい。前述のようにオプション/先物/デリバティブなどの流動性が高まれば、いつでも取引できるとの安心感からポートフォリオへの多様なセットクラスの組込みが推進されるだけでなく、その種類もクレジットやクリプトなどオルタナティブ商品へ広がる可能性が考えられる。 一方、大手のバイサイド企業はこれらの変化(ポートフォリオの多様化やクラウドを利用したマルチアセット取引など)に対応できても、中堅の機関投資家にはテクノロジー面での敷居が高くなると思われるが、そこを埋めるトレーディング分野のアウトソース・サービスがすでに出現している。 このように、金融取引所市場がクラウド・ベースになれば、現在ある様々な制約や懸念が解消され新たな変革が加わる可能性が高い。キャピタル・マーケッツにおけるクラウド活用に関しては、このような波及効果にも注目しておきたい。
Susumu Suzuki
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August 18, 2024
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プライベート・マーケット:ブラックロックがPreqinを買収した理由
2024年7月、ブラックロックが、プライベート・マーケットのデータプロバイダー:Preqinの買収を発表しましたが、ここではその背景を考えてみました。(当ブログは、弊社アナリストAdler Smithがポストしたブログ「Why Is BlackRock Acquiring Preqin?」の翻訳版となります)。 ■ 買収発表の概要世界最大の資産運用会社であり、キャピタルマーケッツ企業へのテクノロジー・プロバイダーでもあるブラックロックは、プライベート・マーケットのデータプロバイダー:Preqin社を32億米ドルで買収すると発表した。 ブラックロックは、Preqinが提供しているデータとリサーチ・ツールを自身の統合ポートフォリオ管理サービス:Aladdinの中のオルタナティブ資産管理ソリューション:eFrontに統合することで、プライベート・マーケット関連機能を大幅に強化することができる。オルタナティブ資産は、2030年ごろまでに40兆米ドル近くに達すると想定される急成長分野である。 ■ 買収の影響Datos Insightsでは、今回の買収はプライベート・マーケットへの注目が高まるキャピタルマーケッツ業界の大きな流れに沿ったものだと考えている。 1.オルタナティブ・データの提供拡大:Preqinは、プライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル、ヘッジファンド、不動産、インフラストラクチャー、プライベートデットなど、オルタナティブ資産に関するデータを網羅しており、プライベート・マーケットに関するデータ需要が拡大している現在、ブラックロックにとっては、資産運用会社としての自社利用だけではなく、テクノロジー・プロバイダー/データ・アグリゲーターとしても大きなメリットが想定される。 2.顧客サービスの強化:ブラックロックは、Preqinのデータとリサーチ機能をアラジンに統合することで、機関投資家やウェルスマネジメント顧客に対して、オルタナティブ投資に関する多様なサービスを提供でき、アラジンの競争力が高まる。 3.プライベート・マーケットの重要性の高まり:機関投資家や富裕層顧客は、投資ポートフォリオに対するオルタナティブ資産の組み入れを増やしているものの、プライベート市場へのアクセスやデータに関する透明性/可用性/標準化などには課題が残っている。今回の合併は、これらの課題に対するブラックロックの回答の第一歩と言えよう。 4.Front-to-Backプラットフォームへの需要拡大:ブラックロックは、2019年に買収したオルタナティブ資産管理ソリューションeフロントをAladdinプラットフォームに統合してきたが、今回それにPrequinのデータが加わることで、Aladdinをより包括的なポートフォリオ管理プラットフォームとすることができる。 5.プライベート・マーケット・ソリューションの事業統合:ブラックロックとPreqinの合併は、統合が進むプライベート・マーケットに関する金融データ・アナリティクス・ソリューションの象徴ともいえよう。これまでの合併事例としては、以下がある。・2023年:MSCIによるプライベート・マーケット・データ/テクノロジー・プロバイダBurgissの買収・2021年:ステート・ストリートによるプライベート・マーケット投資データ管理プラットフォームMercatusの買収・2016年:モーニングスターによるプライベート・マーケット・データ/分析プロバイダPitchBookの買収 ■ 今後の注目点買収提案が正式に決まった後は、ブラックロックがPreqinのデータとリサーチ・ツールを自社のAladdinにどれだけ迅速に統合できるか、また、ブラックロックがPreqinのソリューションを引き続き単独で提供するのかどうか/いつまで提供するのかが注目される(現時点では、単独でのサービス提供が引き続き行われるとされている)。 Datos...
Susumu Suzuki
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August 18, 2024
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消費者がメインバンクに求める機能とは:米国消費者調査
米国には、4大メガバンクから地方銀行、信用金庫、デジタルバンクまで総計9000行の金融機関が存在します。Datos Insightでは、どのような消費者がどの種の金融機関をメインバンクとし、またどのような機能を求めているのか、消費者2500人に対するアンケート調査を実施、その結果をレポート「Redefining the Primary Financial Relationship」にまとめました。ここでは興味深い結果をいくつかご紹介します。 ■ 消費者がメインバンクを選ぶ理由米国では、消費者1世帯平均金融機関3.9社との取引がある。内訳は普通口座(Checking口座)=1.7口座、クレジットカード=1.7枚、P2Pペイメント=1.3社、貯蓄口座=1.0口座などであるが、本人が「メインバンク」と認識している金融機関の選択基準の第一位は「便利なところに支店/ATMがあること:53%(複数回答可)」だった(メインバンクの定義は回答者に任せたが、ほぼ全員が「給与振込みと自動振替/自動引落しを設定している金融機関」と認識)。どの年齢層でも選択基準第一位の理由は同じだったが、70歳以上のシニア世代では67%と非常に高いのに対して、Z世代(30歳以下)では40%だった。 一方、どのような種類の金融機関をメインバンクにしているかでは、四大メガバンク(38%)、地方銀行(26%)、コミュニティバンク(13%)、信用金庫(13%)、オンライン銀行(6%)だった。こちらは世代差は少ないが、世帯年収での違いが顕著で、年収15万ドル以上のセグメントでは四大メガバンク利用が53%に対し、3万5000ドル以下の顧客層ではオンライン銀行が15%となった。オンライン銀行のほとんどが、残高に係わらず口座維持手数料を課金しないためだと思われる。 ■ 今後はデジタル・ツールが重要になる?デジタル・ツール(モバイル・ウォレット、P2P支払い、クレジット・スコア管理など)に関しては、消費者1人当たり4.7種類のツールを利用している。ところがその半数以上がメインバンク以外の金融機関やフィンテック企業などのツールとなっている。更にZ世代/ミレニアル世代の60%が、メインバンクに対して各種DIYツールを充実させてほしいと希望しており、この割合はシニア世代やX世代よりもはるかに高い。ここでいうDIYツールとは前述に加えて、家計簿ツールやクレジット・スコア向上アドバイス、節約指南・積立促進、投資アドバイス・ツールなどを指している ■ メインバンクの地位を確立するには・・・次世代顧客は、しばしば支店に行くわけではないが、支店が近隣にあることをメインバンク選択の理由として「Webサイトやモバイル・アプリで分からなかったことを店頭で質問して解決できること」を挙げている。支店の担当者がこの期待に沿うためには、自社のデジタル・サービスに関するトレーニングが十分に行われている必要がある(コールセンターも同様)。デジタル+人的サービスの組み合わせによるカスタマー・エクスペリエンス向上策が必要だ、とも言えるだろう。 また、メインバンクが提供するデジタル・ツールを5種類以上利用している顧客の93%が、ほぼ全資産をそのメインバンクに預けていることも分かった。逆に言えば、金融機関は使いやすいデジタル・ツールを充実させることで顧客を囲い込み、長期にわたるリレーションを構築できる可能性が高まると思われるがどうだろう。
Susumu Suzuki
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July 28, 2024
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JPモルガン・チェイス銀行が自社開発の生成AI:LLMスイートを社内展開
7月26日のファイナンス・タイムズ紙が「JPモルガン・チェイス銀行のアセットマネジメント/ウェルスマネジメント部門が、自社開発した生成AIツール “LLMスイート”の社内展開を開始した」とする記事を掲載したことで、欧米の金融業界ではちょっとした話題になっています(JPモルガン・チェイスの広報部門はノーコメント)。各社の報道をまとめてみました。 ■ 自社開発生成AIツール報道によると、JPモルガン・チェイス(JPMC)銀行のアセットマネジメント/ウェルスマネジメント(AWM)部門では、自社開発した生成AIツール(社内名称LLMスイート)をフィナンシャル・アドバイザー(FA)のサポート・ツールとして利用を開始したという。具体的なサポート内容として(これまではFAがリサーチ・アナリストに依頼していた)「適切な投資情報やソリューションに関する情報の収集」「ニュース/トピックスに関する解説」などを挙げており、FAの生産性向上を狙っているとしている。 「LLMスイート」は業務を限定しない汎用ツールで、本年に入って全社員の大よそ15%に相当する5万人が、原稿作成/アイディア考案/文章の要約など、ChatGPTと同様な様々な用途での利用を始めているとしている。 ■ 米金融機関における生成AI活用の取組み米国の金融機関でも、2022年末のChatGPTリリースを受け、生成AI活用に対する関心は非常に高まっているが、顧客情報漏洩の懸念やAIの内部構造が把握できないことから、ChatGPTやGoogle Geminiなど汎用ツールの利用には懐疑的な企業が多く、社員の社内利用を禁止としているケースも多い。 JPMCも、AIツールの開発/活用には非常に積極的だが、社員のChatGPT利用に関しては2023年早々に禁止としていた。一方、2023年4月には、連邦準備制度理事会の理事長のスピーチをAIで分析して、金融商品の取引シグナルを取り出す試みを行ったり、同年5月には「IndexGPT」という商標を登録している。恐らく2023年の早い時期から、独自の生成AIツールの開発に着手していたと思われる。 一方、モルガン・スタンレーは、Open AIと提携し「FA向け生成AIツールを導入した」と発表しており、JPMCとは異なるアプローチを採用しているようだ。各金融機関の生成AI活用の取組みに関しては、引き続き注視しておきたい。
Susumu Suzuki
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July 13, 2024
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アマゾンの金融サービスを支えるJPモルガン・チェイス銀行のBaaS
日本では、セブン銀行やイオン銀行、昨今ではauじぶん銀行やJAL NEO Bankなど金融業以外の企業が銀行サービスを手掛けるケースが増えています。米国でも「BANK」と名乗ることはできないものの、金融機関のBaaS/エンベデッド・サービスを利用して実質的な金融サービスを提供する事例が登場しています。ここでは、Amazon.comがJPMorgan Chase銀行と連携して提供する金融サービスを取り上げてみました。 ■ アマゾンが提供する金融サービス米国では数年前まで、GAFAをはじめとする大手テクノロジー企業等が金融事業に参入するとの憶測があったが、流通事業者の銀行ライセンス取得が非常に難しいこともあり、日本のような流れにはなっていない。 ただアマゾン・ドットコムでは、消費者向けには「Amazon Visa Card/Amazon Prime Visa Card」を、マーケットプレースに出店する小売事業者にはペイメント・サービス「Amazon Seller Wallet」を提供しており、実質的に限定的な金融サービスを提供しているとも言える。前者はJPモルガン・チェイス銀行とのコブランド・カードであり、後者も同銀行のエンベデッド・ペイメント・サービス(BaaS)を利用している。 ■ AmazonブランドのクレジットカードAmazon.comが提供するクレジットカードは、アマゾン・ドットコムの商品や傘下のスーパーマーケット:Whole Foodsでの買い物に5%のキャッシュバックが付与される(プライムメンバーでない場合は3%)。更にガソリンスタンドとレストランでの利用には2%、その他すべてのカード利用に1%のキャッシュバックがつく。もちろんカード年会費は無料だ。 発行枚数は未公表だが、米国のプライム・メンバー1億6000万人のうち15%(2000万人程度)がアマゾン・プライム・ビサ・カードを保有していると推計されている。一方、JPモルガン・チェイス銀行のクレジット・カード発行総数は1億5000万枚なので、アマゾン・カードはその15%とも言える。 ■ Amazon Seller...
Susumu Suzuki
Japanese
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July 7, 2024
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米国のゴールベース投資動向
日本では「貯蓄から投資へ」の流れの中、リテール証券業界においては、その事業モデルを「投資商品の推奨と販売」から「受託者責任に基づく投資アドバイス」へと変化させるべく、営業体制や商品ラインナップ、課金モデルの整備などが進んでいます。一方、2000年以降「受託者責任に基づく投資アドバイス」が定着してきた米国では、フィナンシャル・アドバイザーが提供する「投資アドバイス」の内容が、「ポートフォリオ運用」から「個々人の人生設計に合わせたゴールベース投資」へと進化しています。ここでは米国の「ゴールベース投資」の現状と今後をまとめたレポート「The Future of Goals-Based Investing」を概説してみました。 ■ ゴールベース投資の登場米国のリテール証券業界では、1990年頃からその事業モデルが「投資商品の推奨と販売(コミッションベース・モデル)」から「受託者責任に基づく投資アドバイス(フィーベース・モデル)」へと変わってきた。この背景には、顧客の利益を最優先すべきだとするレギュレーションが強化されてきたことがあり、この流れは2000年以降本格化した。 当初、フィナンシャル・アドバイザー(FA)が提供する「投資アドバイス」の中身は、顧客のリスク許容度に基づいて適切なポートフォリオ運用を行う分散投資であった。ところが2001年のハイテクバブル崩壊や2008年のリーマンショック等を経て、パッシブ投資のメリットや適切なポートフォリオ管理を行っても主要株式指標以上のパフォーマンスは難しいことが広く認識されるようになり、FAが提供するアドバイスの内容も、次第に「投資成果の実現」から「個々人の人生目標具現化のための投資(ゴールベース)アドバイス」へと変化している。 ■ ゴールベース・アドバイスの実践状況(アンケート調査の結果)Datos Insightでは、2024年第二四半期に米国のFA436人を対象としたアンケート調査を実施した。それによると、FA379人(87%)が「顧客のゴールに戻づいてポートフォリオを構築/管理するサービス」を提供しており、うち166人(38%)からは、自身が担当する顧客の半数以上にゴールベース・アドバイスを提供しているとの回答を得た。 また、FAのほぼ全員が、ゴールベース・アドバイスの概念を理解していることも分かった。FAは、まず顧客との会話から「顧客のフィナンシャル・プランニング」を行い、それを「ゴールベース投資」に落とし込むという手順を把握している。ただ、その「ゴールベース投資」の中身は、各ゴール毎のポートフォリオ構築/管理に主眼を置くものから、個人/家族の人生全般に渡る毎年のキャッシュフロー実現に注力するもの(=必要に応じてポートフォリオのダイナミックな見直しが必要となることもある)まで様々であることも分かった。 ■ ゴールベース・アドバイスの今後今後は、FAが提供する投資アドバイスの中身がこれまで以上に「ゴールベース投資」中心となることは間違いないだろう。前述の調査でもFAの78%が「フィナンシャル・プランニングが重要」「フィナンシャル・プランニングも投資管理も双方が重要」と回答している。ただ、長期に渡る適切なキャッシュフローの実現方策をアドバイスするためには、FAの更なるトレーニングが必要となり、まずはゴール毎にリスク許容度に応じたモデル・ポートフォリオを利用するアプローチが多様される可能性も高い。また、WM企業毎の戦略/他社との差別化方針や、ゴールベース・アドバイス・ソリューションの進化もサービス内容に影響を与えると思われる。 一方、FAが提供するアドバイスの内容に関しては、投資アドバイス以外の相続対策や税務対策などを強化すべきだとする考え方もある。ウェルス・マネジメント企業のサービス内容の進化に関し引き続き注目しておきたい。
Susumu Suzuki
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June 22, 2024
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JPモルガン・チェイス銀行のEverything Digitalへの取組み
JPモルガン・チェイス銀行は、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の先進企業と広く認識されていますが、その具体像はなかなか見えづらいように思います。ここでは同社が毎年実施しているアナリスト・ミーティングの資料を活用することで、その実情をまとめてみました。 ■ JP Morgan Chase銀行のテクノロジー活用米国銀行最大手のJPモルガン・チェイス銀行(以下JPMC)は、全社員25万人の20%強に相当する5万6000人がエンジニアとしてIT関連業務に携わっており、金融界のテクノロジー・リーダーと広く認識されている。年間のIT予算は、過去5年間平均7%で増加し、2023年には150億ドルに達している(人件費含む)。新規投資と既存システムの維持管理費用の割合は50/50と説明されている。デジタル化(Digital Transformation (DX)/Digitalization)の取組みに関しても、2018年に全社スローガン “Mobile First, Digital Everything”を掲げて全面的な推進を行っている。 ■ DXにつながるテクノロジー活用の歴史JPMCのIT活用は、ジェイミー・ダイモン氏がCEOに就任した2004年に遡る。当時、JPMCはコアシステム全体をIBMにアウトソーシングしていたが、2004年9月に違約金を支払って社内に戻すことが決定され、転籍していた社員4000人もJPMCに戻った。その後、2008年にリーマンショックが起こり、金融業界全体が数年に渡ってバランスシートの見直しを最優先する事態となったが、2010年から2015年にかけては、モバイル専用銀行など多数のフィンテック・ベンチャーが登場して成長機会をうかがい、グーグルやアップルなどのグローバル・ネット企業も金融業への参入が噂されていた。 JPMCでは2015年頃に全社的なデジタル戦略の構築を開始、「アマゾンが金融に参入する前に、自身がアマゾンになろう」との認識でIT活用に大きく舵を切った。そしてモバイル・バンキング、モバイル・トレーディング、P2Pペイメント(QuickPay)、デジタル・ウォレット(ChasePay)などのモバイル・アプリを次々に登場させるとともに、フィンテック企業との提携による住宅ローンアプリや自動車ローンアプリ、自動与信審査などの提供もスタートした。またこれまで営業していなかった州でネット専用ブランド”FINN”でモバイル・バンキングを開始した。 2018年には、リテールバンキング顧客の全タッチポイント(注)でのエクスペリエンス向上を目指す取り組みをはじめ、全社での「Everything Digital」が開始された。これを支えるため、リテール・バンキング部門では、Webサイトとモバイルアプリのアジャイル化を支えるデジタル基盤が構築され、2022年にはChase.comの週15回更新/モバイルアプリの月2回更新が可能になったと発表されている。これと相前後して2020年にはコアバンキングのクラウド移行が表明された。(注)タッチポイント:ATM/デジタル・ウォレット/P2Pペイメント/モバイルアプリ/メッセージングなど顧客と金融機関との接点を指す。 ■ DXを支える体制JPMCは四事業部(コンシューマー・バンキング/コマーシャル・バンキング/キャピタル・マーケッツ・投資銀行/アセットマネジメント・ウェルスマネジメント)で構成されているが、IT部門は、各事業部毎それぞれのIT部門に加え全社横断のIT部門があり(それぞれにCIOが在籍)、業務の内容により個別IT部門が担当するか、横断IT部門が担当かが決められる。 サイバーセキュリティが全社共通で行われる。商品毎のリスク管理は部門別に行われるが、カウンターパーティーのリスク管理は、大手企業顧客一社と複数部門で取引があるケースも多々あることから横断部門で行われている。カスタマー・オンボーディング(新規口座開設)が横断IT部門にあることも興味深い。これにより、例えば銀行口座を持つ個人顧客が、新規にウェルスマネジメント口座を開設する場合、顧客の個人情報は全社共通管理なので、モバイルやWebサイトでの即時口座開設が可能となった。 IT要員の確保も重要な課題である。2018年のIT関連要員は3万人だったが、2023年には前述のとおり56,000人にまで増強されている(その間、全社員数は横ばい)。経験者の採用だけでなくIT部門メンバーのスキルアップにも大きな力が割かれており、双方を組み合わせることで、1000人のデータ・マネジメント要員、900人のデータ・サイエンティスト、機械学習の専門家600人などの専門チームが可能となった。その他、分散台帳技術、RPA、エクスプレイナブルAIなどの専門チームも設けられている。...
Susumu Suzuki
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June 2, 2024
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米国株の翌日決済(T+1)移行はスムーズに完了
米国の株式市場では、5月28日(火)より取引後の決済期限が2営業日から1営業日以内へと短縮されました(いわゆる「T+1移行」)。幸い大きな問題も発生せず、5月31日(金)には関係団体から移行完了宣言が出されています。 ■ 米国証券取引のT+1移行とは何事でも取引と決済が同時に行われるのが理想かもしれないが、金融商品取引の場合、資金の準備や事務処理のため決済までにある程度の時間が必要であり、世界の株式市場では取引後2日以内に決済が行われる「Trade Date+2Days(=T+2)」が一般的である。米国証券取引委員会(SEC)は、2023年2月に、未決済リスクの削減や資金(預託金)の有効活用などの視点から2024年5月28日にT+1へ移行する旨を表明した。 証券業界各社は、T+1に対応できるようバックオフィスの業務プロセスを見直し、また切換え当日には、不測の事態に備え残業体制や時差の異なる他拠点からの支援体制を整えていたが、決済不成立が増える可能性(資金手当ての遅れや取引に誤りがあった際の修正が間に合わないなど)が懸念されていた。また、T+1移行初日(5/28)分の取引決済が実施される5月29日は、最後のT+2決済となる5月24日分の決済も行うことから(米国は5/27は休日で3連休だった)、混乱の生じる可能性を否定できなかった。 ■ スムーズな移行が完了証券取引の実務では、投資家側が決済前に取引内容を承認する確認処理(Affirmation)の承認率が高ければ、決済不成立が少ないとされている。T+1後のAffirmationの期限は取引日当日夜9時となったが、5月28日夜9時のAffirmation率は92.76%と前週の89.59%を超えたことから、証券業界では移行に大きな問題が無いようだとの安心感が広がった。 更にT+1決済初日の5月29日夕方には、証券業協会(SIFMA)は「T+1移行に関して前向きな感触(Optimistic)を得ている」とする声明を出し、続いて5月31日(金)には、SIFMAとThe Investment Company Institute(ICI)、Depository Trust & Clearing Corporation (DTCC)が共同で「T+1移行はスムーズだった(Positive)」として証券業界関係各社の対応に感謝の意を表明した。 ■ 他国への影響米国と同じ時間帯で証券取引が行われているメキシコ/カナダ/アルゼンチンでも、同時(厳密には米国より1日早い5月27日(月)から)に T+1決済へ 移行した。T+1はグローバル潮流となりつつあり、インドは既に実施済み、英国も2027年までに実施するとの意向を表明している。EUでも検討がなされているとの報道がある。日本の証券決済も2019年に...
Susumu Suzuki
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May 20, 2024
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AIで保険を引受け、AIで保険金申請を受けつけるレモネード保険
2015年創業のAIを活用するインシュアテック企業:レモネードでは、オンラインでの保険料見積り/即時引受けに加え、保険金申請(クレーム申請)にもチャットボット/自然言語処理を活用、カスタマー・エクスペリエンスに注力したデジタル・インターフェースを提供しています。顧客数も200万人を超え損害率も改善してきたことから、今後の進展が注目されています。 ■ 企業概況:レモネード保険2015年創業のAIをフル活用したインシュアテック企業:レモネードは、火災保険(持ち家用/借家人用)から事業を開始したが、その後自動車保険/ペット保険に進出、更に現在は生命保険(定期保険のみ)も提供しており、2024年初の顧客数は209万人と発表されている。フランスやオランダなど海外への進出も始めている。 同社の特徴は、オンラインだけで保険契約を締結できることに加えて、事故が起こった際のクレームもチャットボットで処理できることだ。保険申込みの際は、住所から建物に関する情報を、また申込者の名前/生年月日/社会保障番号から本人に関する情報をリアルタイムで収集する。さらに住宅に関する質問に回答してもらうことで即時に見積金額を提示、顧客が望めばその場で契約締結が可能となる。 一方、保険金の申請が必要になった際、ユーザーは、モバイル・アプリからチャットボット:AI Jimに状況を説明することになる。申請の30-50%はAI Jimとのやり取りだけで保険金支払いの判断がなされる。背後では、保険金申請の内容と契約内容との精査や、様々な不正を検知できるアルゴリズムが稼働しているという。もちろんAIだけで判断できないケースには、(人間の)スタッフが対応することになる。 ■ 保険申込みに実際レモネード保険で個人住宅保険の見積りをとってみた。まず住所を入力すると築年数や平米数が表示され確認を求められる(上書き可能)。更に外壁や床の素材、屋根をふき替えたかどうか(変更した場合はおおよその年数)、その他建物内の配管や配電、冷暖房の仕組み、地下室の有無など15程度の質問が出される(分からない場合は「不明」回答も可)。現在住宅保険を契約している場合、その補償限度や免責額を入力すると、現状と同じ前提条件で保険料金が提示される(入力しない場合は、推奨補償額が提案される)。 筆者の場合、提示された見積額は現状の住宅保険(AllState)と大差ない金額だったため、契約変更には至らなかったが、5年程前にAllState保険で住宅保険を締結した際の手間(まず保険会社の検査人に査定に来てもらうアポイントをとり、その後1週間程度で営業担当から見積もり金額がメールで提示される)に比べ、非常に簡便なことを実感した。 ■ 今後の期待創業当初より、保険分野でのAI活用最先端と考えられているレモネードだが、生成AIをはじめとする昨今のAI技術の進展は追い風だと言えよう。同社も、2023年度の株主向けレターにおいて「生成AIをあらゆるビジネス・プロセスの改善や生産性向上に役立てる方針であり、18か月を目途に成果がでてくると考えている」としている。既に顧客が申告した住宅に関する情報の評価や顧客からのemailへの回答などには、生成AIの活用を始めているようだ。 企業としての業績も、2023年末時点の保険料収入は8億ドル(前年22%増)、顧客数は209万人(同13%増)と順調な成長を続けており、まだ最終収益は赤字であるものの、損害率(Gross Loss Ratio:保険料収入に対する支払い保険金の割合)も79%まで下がり、一般的な指標と言われる75%以下にもう一息のところまできた。2020年の新規上場のあと、2022年頃からは株価の低迷が続いている同社だが、昨今の市場状況からインシュアテックの雄として見直し機運もでているようだ。レモネード保険の動向、及び保険業界でのAI活用全般に注目しておきたい。
Susumu Suzuki
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May 4, 2024
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米国金融機関の生成AI活用状況
2022年末のChatGPT発表以来、生成AIに関する関心が非常に高まり、金融機関でも様々な活用方策が検討されていますが、米国金融業界における実際の導入事例はまだそれほど多くないようです。ここでは、その背景を探るとともに、実績を挙げている事例をご紹介します。 ■ 慎重な姿勢金融機関における生成AIに対する関心は高いが、米国の場合、実際の導入にはかなり慎重だ。アメリカン・バンカー誌が2024年3月に発表した調査結果によると、回答のあった127行のうち、全社的な生成AI導入の取り組みを進めている金融機関は2行だけで、限定した業務で小規模な導入を行っているケースが15行、パイロット・プロジェクト段階が30行だった。残り80行は「情報収集段階」「導入計画なし」「不明」との回答だった。 慎重な姿勢の背景には「想定外の結果が出る(Unforeseenable results)」「意図しない差別的要素が含まれる(Unintentinonal biases)」「顧客情報の流出」など金融機関として致命的なリスクが生じる可能性に加え、今後、生成AIに関してどのような規制が制定されるかが不明なことも積極的な活用に踏み切れない要因のようだ。積極的に取り組んでいる金融機関でも「生成AIが出した結果を人間が精査してから活用する分野」を優先している。 ■ 生成AI導入事例生成AIを使ったシステム開発/ソースコード作成は有望な分野だ。シティバンクでは、GitHub Copilotをシステム開発要員(Developers)4万人全員が活用するプロジェクトを推進している。AMEXでもシステム開発メンバー6000人が2024年6月までに生成AIを活用できる体制を導入し、10%の生産性向上を見込んでいる。生成AIが作ったソースコードであってもテストは人間が実施するので、想定外の結果が含まれていてもそれを排除するのに大きな問題はないとの認識だ。 コールセンターのエージェント支援も生産性向上に寄与できる分野だ。AMEXでは、プレミアム・カードの所有者向けに旅行支援サービスを行っているが、「ペット同伴可能な高級リゾート・ホテルを知りたい」など、難しい要望の情報検索に生成AIを活用することで、待ち時間が1分程度短縮できたという実績があがっている。ディスカバー・カードでも複雑な問い合わせに対する社内情報検索に生成AIを用いると、エージェントが正解に到達できる時間が短くなったとしている。更に同社では、チャットボットで解決できない問題を(人間の)エージェントが引き継ぐ際、それまでのやり取りを生成AIが要約することで、エージェントが状況を短時間で把握でき、スムーズに引き継げる仕組みの導入を進めている。 このほか、Comerica銀行などでは、社内ヘルプデスクに生成AIを組み込んで質問の回答の中に該当資料へのリンクを提示することで、社員や対応要員の生産性向上に寄与できたとしている。 ■ 今後の活用方策生成AIの可能性は誰もが認めるところだが、予期せぬリスクも排除できない。そのため現時点では(1)マイクロソフトやグーグル等が提供する汎用生成AIを業務に活用して生産性向上につなげるアプローチ(会議結果の要約や原稿作成など)か、(2)生成AIが読み込む情報源を自社データに限定することで回答内容を想定内に納める方策(ディスカバー・カードやComerica銀行の事例)が用いられている。一部のユーザー企業では、オープンソースの生成AIを導入して自社内でそのアルゴリズムを把握した上、新たな活用を検討している企業もある。 いずれのアプローチも生成AIの良さを生かす方策第一歩として有望であり、その他様々な活用が試みられることは間違いない。生成AIをはじめとする人工知能活用の発展に、今後とも注目しておきたい。
Susumu Suzuki
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April 13, 2024
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銀行アプリ:次のイノベーションはデジタル・レシート管理?
弊社では、デジタル・バンキング時代の差別化施策として「銀行モバイル・アプリでデジタル・レシートの受領/管理が可能になる」という仮説をたて、米国/英国/ブラジル/オーストラリアの消費者2500人に利用の可否を聞きました。その興味深い結果をレポート:Consumer Clarity: Seamless Merchant Interactions Through Innovative App Featuresにまとめました。 ■ 4か国消費者アンケート調査銀行モバイル・アプリが普及したことで、今後は他行と異なるサービスを付加することで差別化施策としたいと考える金融機関も増加している。Datos Insightsでは、チェックアウト時の(カード決済による)レシートを銀行アプリで受領することを想定、米国/英国/ブラジル/オーストラリアの消費者計2500人(米国1000人/他各500人づつ)にアンケート調査を実施してその関心度を探った。具体的には「デジタル・レシートの受領/管理」に加え、「カードで決済している定期購読の解約」「カードで購入した商品の返品」「カード不正利用に対する通知」などの付加価値サービスが銀行のモバイル・アプリで提供されれば利用したいかどうかを聞いた。 消費者の反応は非常に前向きなものだった。デジタル・レシート(現在提供されているサービス:後述)を利用したことのある1800人のうち90%以上が「便利だ」と回答、更に銀行がモバイル・アプリでデジタル・レシート受領/管理が可能になることに対し、過半数が関心があると回答した。興味深いのは、ブラジルの調査結果が最も前向きだったことだろう。ブラジルではネオバンク(注)のNuBankが既にデジタル・レシート受領サービスを提供しており、国民の平均年齢が最も若いこともこの結果を後押しした思われる。 (注)NuBankは、世界で最も成功したデジタル・バンクの一つで、人口2億1000万人のブラジルで8000万口座を獲得している。 ■ デジタル・レシートの現状と認識現在、米国をはじめとする各国では、お店にとっては「用紙の節約」、顧客にとっては「レシート管理の利便性」との視点からデジタル・レシートが推進されているが、現時点での対応方策では、最初の1回だけとはいえ消費者は店頭チェックアウト時にメールアドレスか携帯電話番号(日本ならばLine?)を入力する必要があり、必ずしも普及しているとは言い難い。加えてプライバシーの観点から懸念を抱く消費者もいる。英国では米国よりもネオバンクが多いためか、米国よりも前向きな調査結果だった。 ちなみに、金融機関がデジタル・レシートに関心を持つ背景は、前述の「定期購読解約」「返品」等のサービス提供以外に大きな野心がある。自行発行(或いは自行系列のカード会社発行)のカード利用に関するレシート情報が集まれば、顧客の消費動向を精緻に把握できるという大きなメリットが想定されるからだ。加えて、カード情報から個人とその銀行口座が紐づけられるので、消費者が個人情報を入力する必要がない。 ■ レギュレーション遵守とシステム・インフラの必要性もちろん課題もある。銀行のモバイル・アプリにデジタル・レシート管理機能を盛り込むには、個人情報保護/データ・セキュリティなどレギュレーション遵守が大前提となる。また各金融機関とそれぞれの小売事業者が個別に連携システムを構築することは事実上不可能であり、カードネットワークのような何らかの業務インフラが必要となる。更には、金融機関と消費者のメリットに加え、小売事業者のメリットも明確にする必要がある。 ここに解説したようなデジタル・レシート管理機能が金融機関から提供されるかどうかは不明だが、金融機関がデジタル・バンキング時代の差別化施策を模索していることは確実であり、その動向を引き続きフォローしておきたい。
Susumu Suzuki
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March 31, 2024
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デジタル・バンキングとWeb Accessbilityへの配慮
金融サービスのデジタル化が進展する中、ウェブ・アクセシビリティへの配慮が次第に重みを増しています。弊社ではレギュレーション動向や金融機関の取組み、この分野のサービス・ベンダーの状況などをレポート「The Accessibility Challenge in Digital Banking」にまとめました。ここではその概要をご紹介します。 ■ ウェッブ・アクセシビリティ調査によると、米国では国民の12%程度が何らかの障害(先天的/後天的/一時的/年齢からくる問題などを含む)を持つ一方、視覚障害や聴覚障害にフル対応しているWebサイトは3%でしかない。このような状況に対して、Webサイトの技術標準化団体:W3C(World Wide Web Consortium)が「ウェブ・コンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン(WCAG)」を発行、各国がこれに基づく規制/法律を策定している。 日本では、2024年4月より障害者差別解消法の改正法が施行され、ウェッブ・アクセシビリティが「努力義務」から「合理的配慮の提供義務化」となった。Webサイト上での具体的な対応が義務化されたわけではないが、それに向けての前進と言えよう。 ■ 金融機関の取組み金融業界でも、デジタル・バンキングが推進される中、ウェッブ・アクセシビリティを重視しなければならない時代となってきた。先進的な取り組みとしては、JPモルガン・チェイス銀行では、Office of Disability Inclusion部門を設け、リテール顧客向けWebサイトの対応を進めるだけでなく、障害者の雇用なども積極的に進めようとしている。バンク・オブ・アメリカのAccessible Bankingも同様の取組みと言えよう。 企業としてのステートメントを示し、リテール・バンキング顧客向けWebサイトのアクセシビリティ対応を進めている金融機関は増加しているが、コマーシャル・バンキング分野(顧客企業の担当者を対象としたアクセシビリティの提供)や金融機関自身の社員をも含む総合的な取組みを進めているケースは、まだ少数派のようだ。 ■...
Susumu Suzuki
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March 22, 2024
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20年をかけDXを成就したUPS:配送ルート最適化成功のカギは「トップの認識」と「企業カルチャー」
米国最大の宅配会社UPSでは、2003年に配送ルート最適化の研究に着手、10年後の2012年からシステム導入を開始しました。その後も改善を続けた結果、現在では全世界の配送トラック12万台が走行距離削減(=燃料節約/CO2排出削減)という大きな成果を享受しています。デジタル・トランスフォーメーションの先駆者:UPSの取り組みをまとめてみました。 ■ 配送ルート最適化システム:ORION米国の運送会社UPSは、売上規模910億ドルとFedExを凌ぐ米国最大の宅配企業だ。配送トラック12万台がグローバル220か国で毎日2000万個以上の荷物を配達している。2003年、同社ではデータ分析による配送ルート最適化システム:ORION(On-Road Integrated Optimization and Navigation)の研究開発に着手した。 まずは、ベテラン運転手がどのように走行ルートを決めるかをヒアリング、2008年にはモデル拠点11箇所を選定して、配送トラック1500台に各種センサーや車載GPSを搭載、収集したデータからUPS独自の経路地図作成を開始した。最適経路の計算には、(運転手のインプットによる)信号待ちが少ないルートなど合計2億5000万箇所にのぼる独自の道路情報も活用されている。アルゴリズムは、現場からのフィードバックも加味して改善を続け、ベテラン・ドライバーよりも効率の良いルート選定が可能となった。 2012年に始まったORIONの導入は、2017年には全米展開を完了(トラック5万5000台)、この時点でトラックあたり1日平均8マイル(約12㎞)の走行距離削減が達成できたという。その後は、カナダや欧州への展開を進める一方、米国ではAIを活用した動的最適化機能を持つ新バージョンの開発に着手した(Dynamic ORION:道路混雑の状況や顧客からの配達変更/集荷要望にリアルタイムで対応できる。当初版は、トラックが朝配送センター出発前に選定した最適ルートで走行し、集荷要望等は運転手に電話連絡していた)。2021年夏には米国内でDynamic ORIONの導入を完了、更に平均2-4マイル/1日/トラックの削減となった。 ■ 導入が成功した理由走行ルートの最適化(いわゆる「巡回セールスマン問題」)は、昔から広く知られた課題だが、全組み合わせを比較するには大型コンピュータを活用しても膨大な時間が必要となる。UPSのイノベーションは、実用的なアルゴリズムを作成し、それを全社に定着させたことだろう。 UPSには、もともと「定量的に物事を考える(Quantitative Company)」「継続的な改善を良しとする(Constant Improvement Company)」という企業カルチャーがあった。1990年代後半の時点で運転手は既にGPS付きハンドヘルド端末を使っていたが、経営陣は「運転手の頭にある経路選択ノウハウを集約してデータベース化できれば、最適なルート選定モデルを作れるはずだ」との認識があり、10年以上に渡るプロジェクトを後押しした。 現場の運転手にも多大な協力をもらっている。「自分の直感とは違うルートが指示されてもそれに従う」「工事による道路閉鎖など、ルート決定に影響する担当地域内の情報を随時インプットする」など現場の協力が得られたことで、配送ルートの精度が向上して成果が上がり、それがORIONの信頼を高めるという好循環が生まれた。Dynamic ORION導入で直感と異なるルートが指示されるケースが増えているが、運転手のORIONに対する信頼感がなければとても成立しない。 ■...
Susumu Suzuki
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