日本語ブログ

Datos Insights experts weigh in on critical topics and trends in their industry verticals.

日本語ブログ

Datos Insights experts weigh in on critical topics and trends in their industry verticals.

日本語ブログ

FILTER BY:

Date
July 13, 2024
post
アマゾンの金融サービスを支えるJPモルガンチェイス銀行のBaaS
日本では、セブン銀行やイオン銀行、昨今ではauじぶん銀行やJAL NEO Bankなど金融業以外の企業が銀行サービスを手掛けるケースが増えています。米国でも「BANK」と名乗ることはできないものの、金融機関のBaaS/エンベデッド・サービスを利用して実質的な金融サービスを提供する事例が登場しています。ここでは、Amazon.comがJPMorgan Chase銀行と連携して提供する金融サービスを取り上げてみました。 ■ アマゾンが提供する金融サービス米国では数年前まで、GAFAをはじめとする大手テクノロジー企業等が金融事業に参入するとの憶測があったが、流通事業者の銀行ライセンス取得が非常に難しいこともあり、日本のような流れにはなっていない。 ただアマゾン・ドットコムでは、消費者向けには「Amazon Visa Card/Amazon Prime Visa Card」を、マーケットプレースに出店する小売事業者にはペイメント・サービス「Amazon Seller Wallet」を提供しており、実質的に限定的な金融サービスを提供しているとも言える。前者はJPモルガン・チェイス銀行とのコブランド・カードであり、後者も同銀行のエンベデッド・ペイメント・サービス(BaaS)を利用している。 ■ AmazonブランドのクレジットカードAmazon.comが提供するクレジットカードは、アマゾン・ドットコムの商品や傘下のスーパーマーケット:Whole Foodsでの買い物に5%のキャッシュバックが付与される(プライムメンバーでない場合は3%)。更にガソリンスタンドとレストランでの利用には2%、その他すべてのカード利用に1%のキャッシュバックがつく。もちろんカード年会費は無料だ。 発行枚数は未公表だが、米国のプライム・メンバー1億6000万人のうち15%(2000万人程度)がアマゾン・プライム・ビサ・カードを保有していると推計されている。一方、JPモルガン・チェイス銀行のクレジット・カード発行総数は1億5000万枚なので、アマゾン・カードはその15%とも言える。 ■ Amazon Seller...
Susumu Suzuki
Japanese
|
July 7, 2024
post
米国のゴールベース投資動向
日本では「貯蓄から投資へ」の流れの中、リテール証券業界においては、その事業モデルを「投資商品の推奨と販売」から「受託者責任に基づく投資アドバイス」へと変化させるべく、営業体制や商品ラインナップ、課金モデルの整備などが進んでいます。一方、2000年以降「受託者責任に基づく投資アドバイス」が定着してきた米国では、フィナンシャル・アドバイザーが提供する「投資アドバイス」の内容が、「ポートフォリオ運用」から「個々人の人生設計に合わせたゴールベース投資」へと進化しています。ここでは米国の「ゴールベース投資」の現状と今後をまとめたレポート「The Future of Goals-Based Investing」を概説してみました。 ■ ゴールベース投資の登場米国のリテール証券業界では、1990年頃からその事業モデルが「投資商品の推奨と販売(コミッションベース・モデル)」から「受託者責任に基づく投資アドバイス(フィーベース・モデル)」へと変わってきた。この背景には、顧客の利益を最優先すべきだとするレギュレーションが強化されてきたことがあり、この流れは2000年以降本格化した。 当初、フィナンシャル・アドバイザー(FA)が提供する「投資アドバイス」の中身は、顧客のリスク許容度に基づいて適切なポートフォリオ運用を行う分散投資であった。ところが2001年のハイテクバブル崩壊や2008年のリーマンショック等を経て、パッシブ投資のメリットや適切なポートフォリオ管理を行っても主要株式指標以上のパフォーマンスは難しいことが広く認識されるようになり、FAが提供するアドバイスの内容も、次第に「投資成果の実現」から「個々人の人生目標具現化のための投資(ゴールベース)アドバイス」へと変化している。 ■ ゴールベース・アドバイスの実践状況(アンケート調査の結果)Datos Insightでは、2024年第二四半期に米国のFA436人を対象としたアンケート調査を実施した。それによると、FA379人(87%)が「顧客のゴールに戻づいてポートフォリオを構築/管理するサービス」を提供しており、うち166人(38%)からは、自身が担当する顧客の半数以上にゴールベース・アドバイスを提供しているとの回答を得た。 また、FAのほぼ全員が、ゴールベース・アドバイスの概念を理解していることも分かった。FAは、まず顧客との会話から「顧客のフィナンシャル・プランニング」を行い、それを「ゴールベース投資」に落とし込むという手順を把握している。ただ、その「ゴールベース投資」の中身は、各ゴール毎のポートフォリオ構築/管理に主眼を置くものから、個人/家族の人生全般に渡る毎年のキャッシュフロー実現に注力するもの(=必要に応じてポートフォリオのダイナミックな見直しが必要となることもある)まで様々であることも分かった。 ■ ゴールベース・アドバイスの今後今後は、FAが提供する投資アドバイスの中身がこれまで以上に「ゴールベース投資」中心となることは間違いないだろう。前述の調査でもFAの78%が「フィナンシャル・プランニングが重要」「フィナンシャル・プランニングも投資管理も双方が重要」と回答している。ただ、長期に渡る適切なキャッシュフローの実現方策をアドバイスするためには、FAの更なるトレーニングが必要となり、まずはゴール毎にリスク許容度に応じたモデル・ポートフォリオを利用するアプローチが多様される可能性も高い。また、WM企業毎の戦略/他社との差別化方針や、ゴールベース・アドバイス・ソリューションの進化もサービス内容に影響を与えると思われる。 一方、FAが提供するアドバイスの内容に関しては、投資アドバイス以外の相続対策や税務対策などを強化すべきだとする考え方もある。ウェルス・マネジメント企業のサービス内容の進化に関し引き続き注目しておきたい。
Susumu Suzuki
Japanese
|
June 22, 2024
post
JPモルガン・チェイス銀行のEverything Digitalへの取組み
JPモルガン・チェイス銀行は、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の先進企業と広く認識されていますが、その具体像はなかなか見えづらいように思います。ここでは同社が毎年実施しているアナリスト・ミーティングの資料を活用することで、その実情をまとめてみました。 ■ JP Morgan Chase銀行のテクノロジー活用米国銀行最大手のJPモルガン・チェイス銀行(以下JPMC)は、全社員25万人の20%強に相当する5万6000人がエンジニアとしてIT関連業務に携わっており、金融界のテクノロジー・リーダーと広く認識されている。年間のIT予算は、過去5年間平均7%で増加し、2023年には150億ドルに達している(人件費含む)。新規投資と既存システムの維持管理費用の割合は50/50と説明されている。デジタル化(Digital Transformation (DX)/Digitalization)の取組みに関しても、2018年に全社スローガン “Mobile First, Digital Everything”を掲げて全面的な推進を行っている。 ■ DXにつながるテクノロジー活用の歴史JPMCのIT活用は、ジェイミー・ダイモン氏がCEOに就任した2004年に遡る。当時、JPMCはコアシステム全体をIBMにアウトソーシングしていたが、2004年9月に違約金を支払って社内に戻すことが決定され、転籍していた社員4000人もJPMCに戻った。その後、2008年にリーマンショックが起こり、金融業界全体が数年に渡ってバランスシートの見直しを最優先する事態となったが、2010年から2015年にかけては、モバイル専用銀行など多数のフィンテック・ベンチャーが登場して成長機会をうかがい、グーグルやアップルなどのグローバル・ネット企業も金融業への参入が噂されていた。 JPMCでは2015年頃に全社的なデジタル戦略の構築を開始、「アマゾンが金融に参入する前に、自身がアマゾンになろう」との認識でIT活用に大きく舵を切った。そしてモバイル・バンキング、モバイル・トレーディング、P2Pペイメント(QuickPay)、デジタル・ウォレット(ChasePay)などのモバイル・アプリを次々に登場させるとともに、フィンテック企業との提携による住宅ローンアプリや自動車ローンアプリ、自動与信審査などの提供もスタートした。またこれまで営業していなかった州でネット専用ブランド”FINN”でモバイル・バンキングを開始した。 2018年には、リテールバンキング顧客の全タッチポイント(注)でのエクスペリエンス向上を目指す取り組みをはじめ、全社での「Everything Digital」が開始された。これを支えるため、リテール・バンキング部門では、Webサイトとモバイルアプリのアジャイル化を支えるデジタル基盤が構築され、2022年にはChase.comの週15回更新/モバイルアプリの月2回更新が可能になったと発表されている。これと相前後して2020年にはコアバンキングのクラウド移行が表明された。(注)タッチポイント:ATM/デジタル・ウォレット/P2Pペイメント/モバイルアプリ/メッセージングなど顧客と金融機関との接点を指す。 ■ DXを支える体制JPMCは四事業部(コンシューマー・バンキング/コマーシャル・バンキング/キャピタル・マーケッツ・投資銀行/アセットマネジメント・ウェルスマネジメント)で構成されているが、IT部門は、各事業部毎それぞれのIT部門に加え全社横断のIT部門があり(それぞれにCIOが在籍)、業務の内容により個別IT部門が担当するか、横断IT部門が担当かが決められる。 サイバーセキュリティが全社共通で行われる。商品毎のリスク管理は部門別に行われるが、カウンターパーティーのリスク管理は、大手企業顧客一社と複数部門で取引があるケースも多々あることから横断部門で行われている。カスタマー・オンボーディング(新規口座開設)が横断IT部門にあることも興味深い。これにより、例えば銀行口座を持つ個人顧客が、新規にウェルスマネジメント口座を開設する場合、顧客の個人情報は全社共通管理なので、モバイルやWebサイトでの即時口座開設が可能となった。 IT要員の確保も重要な課題である。2018年のIT関連要員は3万人だったが、2023年には前述のとおり56,000人にまで増強されている(その間、全社員数は横ばい)。経験者の採用だけでなくIT部門メンバーのスキルアップにも大きな力が割かれており、双方を組み合わせることで、1000人のデータ・マネジメント要員、900人のデータ・サイエンティスト、機械学習の専門家600人などの専門チームが可能となった。その他、分散台帳技術、RPA、エクスプレイナブルAIなどの専門チームも設けられている。...
Susumu Suzuki
Japanese
|
June 2, 2024
post
米国株の翌日決済(T+1)移行はスムーズに完了
米国の株式市場では、5月28日(火)より取引後の決済期限が2営業日から1営業日以内へと短縮されました(いわゆる「T+1移行」)。幸い大きな問題も発生せず、5月31日(金)には関係団体から移行完了宣言が出されています。 ■ 米国証券取引のT+1移行とは何事でも取引と決済が同時に行われるのが理想かもしれないが、金融商品取引の場合、資金の準備や事務処理のため決済までにある程度の時間が必要であり、世界の株式市場では取引後2日以内に決済が行われる「Trade Date+2Days(=T+2)」が一般的である。米国証券取引委員会(SEC)は、2023年2月に、未決済リスクの削減や資金(預託金)の有効活用などの視点から2024年5月28日にT+1へ移行する旨を表明した。 証券業界各社は、T+1に対応できるようバックオフィスの業務プロセスを見直し、また切換え当日には、不測の事態に備え残業体制や時差の異なる他拠点からの支援体制を整えていたが、決済不成立が増える可能性(資金手当ての遅れや取引に誤りがあった際の修正が間に合わないなど)が懸念されていた。また、T+1移行初日(5/28)分の取引決済が実施される5月29日は、最後のT+2決済となる5月24日分の決済も行うことから(米国は5/27は休日で3連休だった)、混乱の生じる可能性を否定できなかった。 ■ スムーズな移行が完了証券取引の実務では、投資家側が決済前に取引内容を承認する確認処理(Affirmation)の承認率が高ければ、決済不成立が少ないとされている。T+1後のAffirmationの期限は取引日当日夜9時となったが、5月28日夜9時のAffirmation率は92.76%と前週の89.59%を超えたことから、証券業界では移行に大きな問題が無いようだとの安心感が広がった。 更にT+1決済初日の5月29日夕方には、証券業協会(SIFMA)は「T+1移行に関して前向きな感触(Optimistic)を得ている」とする声明を出し、続いて5月31日(金)には、SIFMAとThe Investment Company Institute(ICI)、Depository Trust & Clearing Corporation (DTCC)が共同で「T+1移行はスムーズだった(Positive)」として証券業界関係各社の対応に感謝の意を表明した。 ■ 他国への影響米国と同じ時間帯で証券取引が行われているメキシコ/カナダ/アルゼンチンでも、同時(厳密には米国より1日早い5月27日(月)から)に T+1決済へ 移行した。T+1はグローバル潮流となりつつあり、インドは既に実施済み、英国も2027年までに実施するとの意向を表明している。EUでも検討がなされているとの報道がある。日本の証券決済も2019年に...
Susumu Suzuki
Japanese
|
May 20, 2024
post
AIで保険を引受け、AIで保険金申請を受けつけるレモネード保険
2015年創業のAIを活用するインシュアテック企業:レモネードでは、オンラインでの保険料見積り/即時引受けに加え、保険金申請(クレーム申請)にもチャットボット/自然言語処理を活用、カスタマー・エクスペリエンスに注力したデジタル・インターフェースを提供しています。顧客数も200万人を超え損害率も改善してきたことから、今後の進展が注目されています。 ■ 企業概況:レモネード保険2015年創業のAIをフル活用したインシュアテック企業:レモネードは、火災保険(持ち家用/借家人用)から事業を開始したが、その後自動車保険/ペット保険に進出、更に現在は生命保険(定期保険のみ)も提供しており、2024年初の顧客数は209万人と発表されている。フランスやオランダなど海外への進出も始めている。 同社の特徴は、オンラインだけで保険契約を締結できることに加えて、事故が起こった際のクレームもチャットボットで処理できることだ。保険申込みの際は、住所から建物に関する情報を、また申込者の名前/生年月日/社会保障番号から本人に関する情報をリアルタイムで収集する。さらに住宅に関する質問に回答してもらうことで即時に見積金額を提示、顧客が望めばその場で契約締結が可能となる。 一方、保険金の申請が必要になった際、ユーザーは、モバイル・アプリからチャットボット:AI Jimに状況を説明することになる。申請の30-50%はAI Jimとのやり取りだけで保険金支払いの判断がなされる。背後では、保険金申請の内容と契約内容との精査や、様々な不正を検知できるアルゴリズムが稼働しているという。もちろんAIだけで判断できないケースには、(人間の)スタッフが対応することになる。 ■ 保険申込みに実際レモネード保険で個人住宅保険の見積りをとってみた。まず住所を入力すると築年数や平米数が表示され確認を求められる(上書き可能)。更に外壁や床の素材、屋根をふき替えたかどうか(変更した場合はおおよその年数)、その他建物内の配管や配電、冷暖房の仕組み、地下室の有無など15程度の質問が出される(分からない場合は「不明」回答も可)。現在住宅保険を契約している場合、その補償限度や免責額を入力すると、現状と同じ前提条件で保険料金が提示される(入力しない場合は、推奨補償額が提案される)。 筆者の場合、提示された見積額は現状の住宅保険(AllState)と大差ない金額だったため、契約変更には至らなかったが、5年程前にAllState保険で住宅保険を締結した際の手間(まず保険会社の検査人に査定に来てもらうアポイントをとり、その後1週間程度で営業担当から見積もり金額がメールで提示される)に比べ、非常に簡便なことを実感した。 ■ 今後の期待創業当初より、保険分野でのAI活用最先端と考えられているレモネードだが、生成AIをはじめとする昨今のAI技術の進展は追い風だと言えよう。同社も、2023年度の株主向けレターにおいて「生成AIをあらゆるビジネス・プロセスの改善や生産性向上に役立てる方針であり、18か月を目途に成果がでてくると考えている」としている。既に顧客が申告した住宅に関する情報の評価や顧客からのemailへの回答などには、生成AIの活用を始めているようだ。 企業としての業績も、2023年末時点の保険料収入は8億ドル(前年22%増)、顧客数は209万人(同13%増)と順調な成長を続けており、まだ最終収益は赤字であるものの、損害率(Gross Loss Ratio:保険料収入に対する支払い保険金の割合)も79%まで下がり、一般的な指標と言われる75%以下にもう一息のところまできた。2020年の新規上場のあと、2022年頃からは株価の低迷が続いている同社だが、昨今の市場状況からインシュアテックの雄として見直し機運もでているようだ。レモネード保険の動向、及び保険業界でのAI活用全般に注目しておきたい。
Susumu Suzuki
Japanese
|
May 4, 2024
post
米国金融機関の生成AI活用状況
2022年末のChatGPT発表以来、生成AIに関する関心が非常に高まり、金融機関でも様々な活用方策が検討されていますが、米国金融業界における実際の導入事例はまだそれほど多くないようです。ここでは、その背景を探るとともに、実績を挙げている事例をご紹介します。 ■ 慎重な姿勢金融機関における生成AIに対する関心は高いが、米国の場合、実際の導入にはかなり慎重だ。アメリカン・バンカー誌が2024年3月に発表した調査結果によると、回答のあった127行のうち、全社的な生成AI導入の取り組みを進めている金融機関は2行だけで、限定した業務で小規模な導入を行っているケースが15行、パイロット・プロジェクト段階が30行だった。残り80行は「情報収集段階」「導入計画なし」「不明」との回答だった。 慎重な姿勢の背景には「想定外の結果が出る(Unforeseenable results)」「意図しない差別的要素が含まれる(Unintentinonal biases)」「顧客情報の流出」など金融機関として致命的なリスクが生じる可能性に加え、今後、生成AIに関してどのような規制が制定されるかが不明なことも積極的な活用に踏み切れない要因のようだ。積極的に取り組んでいる金融機関でも「生成AIが出した結果を人間が精査してから活用する分野」を優先している。 ■ 生成AI導入事例生成AIを使ったシステム開発/ソースコード作成は有望な分野だ。シティバンクでは、GitHub Copilotをシステム開発要員(Developers)4万人全員が活用するプロジェクトを推進している。AMEXでもシステム開発メンバー6000人が2024年6月までに生成AIを活用できる体制を導入し、10%の生産性向上を見込んでいる。生成AIが作ったソースコードであってもテストは人間が実施するので、想定外の結果が含まれていてもそれを排除するのに大きな問題はないとの認識だ。 コールセンターのエージェント支援も生産性向上に寄与できる分野だ。AMEXでは、プレミアム・カードの所有者向けに旅行支援サービスを行っているが、「ペット同伴可能な高級リゾート・ホテルを知りたい」など、難しい要望の情報検索に生成AIを活用することで、待ち時間が1分程度短縮できたという実績があがっている。ディスカバー・カードでも複雑な問い合わせに対する社内情報検索に生成AIを用いると、エージェントが正解に到達できる時間が短くなったとしている。更に同社では、チャットボットで解決できない問題を(人間の)エージェントが引き継ぐ際、それまでのやり取りを生成AIが要約することで、エージェントが状況を短時間で把握でき、スムーズに引き継げる仕組みの導入を進めている。 このほか、Comerica銀行などでは、社内ヘルプデスクに生成AIを組み込んで質問の回答の中に該当資料へのリンクを提示することで、社員や対応要員の生産性向上に寄与できたとしている。 ■ 今後の活用方策生成AIの可能性は誰もが認めるところだが、予期せぬリスクも排除できない。そのため現時点では(1)マイクロソフトやグーグル等が提供する汎用生成AIを業務に活用して生産性向上につなげるアプローチ(会議結果の要約や原稿作成など)か、(2)生成AIが読み込む情報源を自社データに限定することで回答内容を想定内に納める方策(ディスカバー・カードやComerica銀行の事例)が用いられている。一部のユーザー企業では、オープンソースの生成AIを導入して自社内でそのアルゴリズムを把握した上、新たな活用を検討している企業もある。 いずれのアプローチも生成AIの良さを生かす方策第一歩として有望であり、その他様々な活用が試みられることは間違いない。生成AIをはじめとする人工知能活用の発展に、今後とも注目しておきたい。
Susumu Suzuki
Japanese
|
April 13, 2024
post
銀行アプリ:次のイノベーションはデジタル・レシート管理?
弊社では、デジタル・バンキング時代の差別化施策として「銀行モバイル・アプリでデジタル・レシートの受領/管理が可能になる」という仮説をたて、米国/英国/ブラジル/オーストラリアの消費者2500人に利用の可否を聞きました。その興味深い結果をレポート:Consumer Clarity: Seamless Merchant Interactions Through Innovative App Featuresにまとめました。 ■ 4か国消費者アンケート調査銀行モバイル・アプリが普及したことで、今後は他行と異なるサービスを付加することで差別化施策としたいと考える金融機関も増加している。Datos Insightsでは、チェックアウト時の(カード決済による)レシートを銀行アプリで受領することを想定、米国/英国/ブラジル/オーストラリアの消費者計2500人(米国1000人/他各500人づつ)にアンケート調査を実施してその関心度を探った。具体的には「デジタル・レシートの受領/管理」に加え、「カードで決済している定期購読の解約」「カードで購入した商品の返品」「カード不正利用に対する通知」などの付加価値サービスが銀行のモバイル・アプリで提供されれば利用したいかどうかを聞いた。 消費者の反応は非常に前向きなものだった。デジタル・レシート(現在提供されているサービス:後述)を利用したことのある1800人のうち90%以上が「便利だ」と回答、更に銀行がモバイル・アプリでデジタル・レシート受領/管理が可能になることに対し、過半数が関心があると回答した。興味深いのは、ブラジルの調査結果が最も前向きだったことだろう。ブラジルではネオバンク(注)のNuBankが既にデジタル・レシート受領サービスを提供しており、国民の平均年齢が最も若いこともこの結果を後押しした思われる。 (注)NuBankは、世界で最も成功したデジタル・バンクの一つで、人口2億1000万人のブラジルで8000万口座を獲得している。 ■ デジタル・レシートの現状と認識現在、米国をはじめとする各国では、お店にとっては「用紙の節約」、顧客にとっては「レシート管理の利便性」との視点からデジタル・レシートが推進されているが、現時点での対応方策では、最初の1回だけとはいえ消費者は店頭チェックアウト時にメールアドレスか携帯電話番号(日本ならばLine?)を入力する必要があり、必ずしも普及しているとは言い難い。加えてプライバシーの観点から懸念を抱く消費者もいる。英国では米国よりもネオバンクが多いためか、米国よりも前向きな調査結果だった。 ちなみに、金融機関がデジタル・レシートに関心を持つ背景は、前述の「定期購読解約」「返品」等のサービス提供以外に大きな野心がある。自行発行(或いは自行系列のカード会社発行)のカード利用に関するレシート情報が集まれば、顧客の消費動向を精緻に把握できるという大きなメリットが想定されるからだ。加えて、カード情報から個人とその銀行口座が紐づけられるので、消費者が個人情報を入力する必要がない。 ■ レギュレーション遵守とシステム・インフラの必要性もちろん課題もある。銀行のモバイル・アプリにデジタル・レシート管理機能を盛り込むには、個人情報保護/データ・セキュリティなどレギュレーション遵守が大前提となる。また各金融機関とそれぞれの小売事業者が個別に連携システムを構築することは事実上不可能であり、カードネットワークのような何らかの業務インフラが必要となる。更には、金融機関と消費者のメリットに加え、小売事業者のメリットも明確にする必要がある。 ここに解説したようなデジタル・レシート管理機能が金融機関から提供されるかどうかは不明だが、金融機関がデジタル・バンキング時代の差別化施策を模索していることは確実であり、その動向を引き続きフォローしておきたい。
Susumu Suzuki
Japanese
|
March 31, 2024
post
デジタル・バンキングとWeb Accessbilityへの配慮
金融サービスのデジタル化が進展する中、ウェブ・アクセシビリティへの配慮が次第に重みを増しています。弊社ではレギュレーション動向や金融機関の取組み、この分野のサービス・ベンダーの状況などをレポート「The Accessibility Challenge in Digital Banking」にまとめました。ここではその概要をご紹介します。 ■ ウェッブ・アクセシビリティ調査によると、米国では国民の12%程度が何らかの障害(先天的/後天的/一時的/年齢からくる問題などを含む)を持つ一方、視覚障害や聴覚障害にフル対応しているWebサイトは3%でしかない。このような状況に対して、Webサイトの技術標準化団体:W3C(World Wide Web Consortium)が「ウェブ・コンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン(WCAG)」を発行、各国がこれに基づく規制/法律を策定している。 日本では、2024年4月より障害者差別解消法の改正法が施行され、ウェッブ・アクセシビリティが「努力義務」から「合理的配慮の提供義務化」となった。Webサイト上での具体的な対応が義務化されたわけではないが、それに向けての前進と言えよう。 ■ 金融機関の取組み金融業界でも、デジタル・バンキングが推進される中、ウェッブ・アクセシビリティを重視しなければならない時代となってきた。先進的な取り組みとしては、JPモルガン・チェイス銀行では、Office of Disability Inclusion部門を設け、リテール顧客向けWebサイトの対応を進めるだけでなく、障害者の雇用なども積極的に進めようとしている。バンク・オブ・アメリカのAccessible Bankingも同様の取組みと言えよう。 企業としてのステートメントを示し、リテール・バンキング顧客向けWebサイトのアクセシビリティ対応を進めている金融機関は増加しているが、コマーシャル・バンキング分野(顧客企業の担当者を対象としたアクセシビリティの提供)や金融機関自身の社員をも含む総合的な取組みを進めているケースは、まだ少数派のようだ。 ■...
Susumu Suzuki
Japanese
|
March 22, 2024
post
20年をかけDXを成就したUPS:配送ルート最適化成功のカギは「トップの認識」と「企業カルチャー」
米国最大の宅配会社UPSでは、2003年に配送ルート最適化の研究に着手、10年後の2012年からシステム導入を開始しました。その後も改善を続けた結果、現在では全世界の配送トラック12万台が走行距離削減(=燃料節約/CO2排出削減)という大きな成果を享受しています。デジタル・トランスフォーメーションの先駆者:UPSの取り組みをまとめてみました。 ■ 配送ルート最適化システム:ORION米国の運送会社UPSは、売上規模910億ドルとFedExを凌ぐ米国最大の宅配企業だ。配送トラック12万台がグローバル220か国で毎日2000万個以上の荷物を配達している。2003年、同社ではデータ分析による配送ルート最適化システム:ORION(On-Road Integrated Optimization and Navigation)の研究開発に着手した。 まずは、ベテラン運転手がどのように走行ルートを決めるかをヒアリング、2008年にはモデル拠点11箇所を選定して、配送トラック1500台に各種センサーや車載GPSを搭載、収集したデータからUPS独自の経路地図作成を開始した。最適経路の計算には、(運転手のインプットによる)信号待ちが少ないルートなど合計2億5000万箇所にのぼる独自の道路情報も活用されている。アルゴリズムは、現場からのフィードバックも加味して改善を続け、ベテラン・ドライバーよりも効率の良いルート選定が可能となった。 2012年に始まったORIONの導入は、2017年には全米展開を完了(トラック5万5000台)、この時点でトラックあたり1日平均8マイル(約12㎞)の走行距離削減が達成できたという。その後は、カナダや欧州への展開を進める一方、米国ではAIを活用した動的最適化機能を持つ新バージョンの開発に着手した(Dynamic ORION:道路混雑の状況や顧客からの配達変更/集荷要望にリアルタイムで対応できる。当初版は、トラックが朝配送センター出発前に選定した最適ルートで走行し、集荷要望等は運転手に電話連絡していた)。2021年夏には米国内でDynamic ORIONの導入を完了、更に平均2-4マイル/1日/トラックの削減となった。 ■ 導入が成功した理由走行ルートの最適化(いわゆる「巡回セールスマン問題」)は、昔から広く知られた課題だが、全組み合わせを比較するには大型コンピュータを活用しても膨大な時間が必要となる。UPSのイノベーションは、実用的なアルゴリズムを作成し、それを全社に定着させたことだろう。 UPSには、もともと「定量的に物事を考える(Quantitative Company)」「継続的な改善を良しとする(Constant Improvement Company)」という企業カルチャーがあった。1990年代後半の時点で運転手は既にGPS付きハンドヘルド端末を使っていたが、経営陣は「運転手の頭にある経路選択ノウハウを集約してデータベース化できれば、最適なルート選定モデルを作れるはずだ」との認識があり、10年以上に渡るプロジェクトを後押しした。 現場の運転手にも多大な協力をもらっている。「自分の直感とは違うルートが指示されてもそれに従う」「工事による道路閉鎖など、ルート決定に影響する担当地域内の情報を随時インプットする」など現場の協力が得られたことで、配送ルートの精度が向上して成果が上がり、それがORIONの信頼を高めるという好循環が生まれた。Dynamic ORION導入で直感と異なるルートが指示されるケースが増えているが、運転手のORIONに対する信頼感がなければとても成立しない。 ■...
Susumu Suzuki
Japanese
|
March 9, 2024
post
ビジネス・レジリエンスにサイバー攻撃対応を含める必要性
昨今ランサムウエアやハッキング等でコンピュータ・システムが利用不能となり、企業や市町村のサービスが長期間マヒする「インシデント」が増加しています。このような事態に対して(1)サイバーセキュリティ対策と独立して「サイバー・レジリエンシー(回復力/継続性)対策」を立案し、更に(2)既存のビジネス・レジリエンシー対策(BCP/DR)との一体運用が必要だと考えられます。弊社では、この分野の課題と対処方策をレポート:CISO Guide to Cyber Resiliency: Building a Future of IT Stabilityにまとめました。ここではその概要をご紹介します。 ■ サイバー・レジリエンシー対策の必要性企業や地方自治体のビジネス・レジリエンシー(回復性/継続性)対策(ディザスター・リカバリー(DR)/ビジネス継続性(BCP)などとも称される)は、これまで地震などの自然災害や停電/火災など「物理的な」事故/災害を想定して、事業の継続方策が検討されてきた。昨今ランサムウェアなどサイバー攻撃がビジネスをマヒさせるケースが散見されるようになり、サイバー・インシデントを含んだレジリエンスの確保が必要だとの認識が広がっている。ところが、これまでコンピュータ・システム被害を防ぐサイバーセキュリティ対策はあっても、サイバー・インシデント後の事業継続や復旧方策を検討してきたケースは多くない。 ■ サイバーセキュリティ対策とサイバー・レジリエンシー対策の分離ここでは、まずサイバーセキュリティ対策とサイバー・レジリエンシー対策を区別してみたい。(1)サイバーセキュリティ対策これまで実施されてきた、サイバー攻撃からの被害を防ぐ/最小限に留める施策全般・サイバー被害予防策導入の徹底(脆弱性への対処など)・サイバー攻撃の検知と阻止方策の導入・デジタル情報の保護(暗号化など)・DDoS攻撃に対するシステム保全など (2)サイバー・レジリエンシー対策(サイバー・インシデント後の復旧対策)レジリエンスの確保には、まずサイバー攻撃がビジネスにどのような影響を与えるか(「顧客サポートができない」「営業活動ができない」「流通が止まる」「生産ができない」など)を理解し、継続の必要度に合わせたリカバリー対策(全面復旧/部分復旧を目指すのか、代替手段を導入するか等)を考案する必要がある。更に以下のような事項の事前検討も必要となるだろう。・ビジネス全体としてのダウンタイムの最小化・金銭的被害の最小化・意思決定手順の明確化(「いつ社内業務をレジリエンシー・モードに切り替えるか」「いつ社内/社外にインシデントを宣言するか」「非常時における外部リソース活用方策」など) ■ サイバー・レジリエンシーとビジネス・レジリエンシー対策の融合サイバー・レジリエンシーの骨格が出来た後は、従来からあるビジネス・レジリエンシー対策との整合性を検証し、インシデント対応の一体化が必要となる。その中ではインシデント対応体制の見直しやチーム・メンバーのトレーニング/相互理解の強化なども含まれるだろう。 国際情勢が緊張感を増す中、米国では(高度な技術力を持つ)他国家によるサイバー攻撃への警戒感が高まっている。そのようなサイバーセキュリティ動向も念頭におきながらサイバー・レジリエンシー対策の立案を進める必要があると思われるがどうだろう。
Susumu Suzuki
Japanese
|
March 2, 2024
post
個人投資家のオルタナティブ投資
昨今、日本政府の資産運用立国を目指す方針表明や、新NISAの導入などにより投資に対する関心が高まる中、オルタナティブ投資への注目も集まっています。米国でも、富裕層やマス・アフルーエント層では、ポートフォリオにもオルタナティブ資産を組み込む動きが始まっています。Datos Insightsでは、北米(米国/カナダ)のウェルスマネジメント企業80社に対して実施したオルタナティブ投資に関するアンケート調査を実施、その結果をレポート:North American Wealth Managers Adoption of Personalization at Scale: Alternative Assets にまとめています。 ■ オルタナティブ資産と品ぞろえオルタナティブ資産は、株式や債券などとはリスク・リターンの特性が異なるため長期分散投資に必要な要素と考えられ、以前から年金基金や大学の基金運用などのポートフォリオに組み込まれていた。これが次第に超富裕層にも浸透し、昨今では富裕層/マス・アフルーエント顧客からも注目されるようになってきた。 オルタナティブ投資という言葉からは未上場株を思い浮かべる方も多いかもしれないが、今回の調査では、それに加えて不動産投資/インフラ投資/私募債/コモディティ/エネルギー/貴金属/デジタル・アセット/ヘッジ・ファンドの取組みも調査した。 米国のワイヤハウスやカナダの五大銀行をはじめとする大手ウェルス・マネジメント企業では、これらすべての投資商品を取り扱っているが、オンライン証券や小規模なウェルス・マネジメント企業では、未上場株/不動産投資/インフラ投資/私募債は取り扱っていても、コモディティ/エネルギー/貴金属の取り扱いは限定され、デジタル・アセットとヘッジ・ファンドは更に少なかった。 ■ 個人顧客におけるオルタナティブ商品の組入れ割合と今後の動向現時点では、オルタナティブ投資を行っている顧客は超富裕層やファミリー・オフィスに限られており、顧客数の視点からはごくわずかである。更に、それらオルタナティブ投資を行っている顧客においても、ポートフォリオに対する組み入れ割合は10%以下が70-80%を占め、組み入れ割合が10%を超える顧客は20%未満との回答がほとんどだった。ただ3年後の想定としては、ポートフォリオにおけるオルタナティブ投資の割合が10%以上となる顧客の割合が40%を超えるのではないかとする回答が多かった。 ■...
Susumu Suzuki
Japanese
|
February 22, 2024
post
米キャピタル・ワン銀行のディスカバー・カード買収提案を解説する
2024年2月19日、米国ではCapital One FinancialがDiscover Financialを353億ドルで買収する提案を発表しました。日本ではなじみのない両社ですが、クレジット・カード業界に大きな変化をもたらす可能性があり、米国金融業界では注目が集まっています。その概要を解説してみました。 ■ Capital One Bankの歴史、Discover Cardの歴史Capital One Financial(キャピタル・ワン)は、1994年にシグネット銀行(バージニア州)のカード部門がスピンオフして誕生、当初はクレジット・カード専業企業として比較的信用度が低い顧客に対して徹底したリスク管理を武器にカード事業を伸ばしてきた。その後、銀行数行を買収して銀行業務にも進出、現在ではクレジット・カード残高で全米第4位(2023年1229億ドル)の大手金融機関だ。信用度の低い顧客へのカード発行にはデータ分析が必須であるため、創業当初からデータ活用に非常に積極的な企業だった。最近では、大手金融機関として初めてコア・システムのパブリック・クラウドへ全面移行を完了するなど、デジタル・トランスフォーメーション最先端企業としても知られている。 一方のDiscover Financial(ディスカバー・カード)は、1985年、当時米最大手百貨店だったシアーズのカード部門として発足、その後モルガン・スタンレー傘下となり2007年のスピンオフを経て上場企業となった。2023年のクレジット・カード残高は940億ドルと全米第6位だ。米国では、クレジット・カードのアワードとしてキャッシュ・バックが定着しているが、ディスカバーはCash Backを提供した最初のカード会社だった。ブランド・イメージは、AmexやVisa、MasterCardには及ばないものの、Webサイトの使い勝手など顧客満足度調査では毎年他社をしのいでいる。 ディスカバー・カードの大きな特徴として、カード発行機能とカード・ネットワークを兼ね備えている点がある(AmexやJCBと同様:米国では銀行はカード発行に注力し、カード利用/決済はVISAかMasterCardが提供するネットワークを利用するケースが大多数である)。キャピタル・ワンCEOのフェアバンク氏は、買収提案発表の際、ディスカバー・カードのネットワークに大きな価値を見出したと説明した。 ■ 立場により異なる合併の影響(カードネットワーク)今回の合併は、米国に4つあるカード・ネットワーク(VISA/MasterCard/Amex/Discover)の1社が大手銀行と一体となることを意味する。現在VISAとMasterCardのシェア合計は75%程度だが(Amex=20%、Discover=4%程度)、キャピタル・ワンは、現在のVISA/Master利用を順次自社ネットワークへ切り替えると思われ、カード・ネットワークの競争激化が予想される。買収発表後、VISAとMasterCardの株価は下がり気味だ。 (銀行:カードローン提供者として)クレジットカードの利用残高は、JPモルガン・チェイス銀行が1914億ドル(2023年度)で第1位だが、キャピタル・ワンとディスカバーが合併すれば利用残高の単純合計はJPモルガンを上回ることになり、一部の政治家や消費者保護団体からは競争を阻害し消費者に有害だとの意見が出ている。また、米国では金利水準が高まる中クレジット・カード残高も増えており、景気動向次第では延滞リスクが高まる可能性を懸念する声もある。 (金融当局の承認)このように、今回の合併案には競争を促進する面と阻害する面があるため、当局から合併計画の承認が得られるかどうかは流動的だとの意見もあるが、Datos Insightsのアナリストは、最終的には合併の承認が得られる可能性は高いのではないかと捉えている。...
Susumu Suzuki
Japanese
|
February 18, 2024
post
不正対策が不十分な上に補償も拒否:NY州司法長官がシティバンクを提訴
2014年1月、ニューヨーク州司法長官が「口座乗っ取りに対する十分な不正防止対策を導入せず、かつ不正被害者への補償を拒否している」としてシティーバンクに対する訴訟を起こしました。テクノロジー面/行内コミュニケーション双方の課題が浮き彫りになっています。 ■ 未解決の不正送金事件ニューヨーク州司法長官がシティーバンクに起こした訴訟に関する発表(プレスリリース)では、犯罪者が被害者の口座を乗っ取り不正に送金したのに被害者の損失を補償しないのはElectronic Fund Transfer Act (EFTA)に違反するとし、2つの事件の概要に言及している。 2021年10月に発生した第1の事件は、被害者はフィッシング・メッセージのリンクをクリックしたが、個人情報は入力せず、かつ近隣の支店に対して「リンクをクリックしたので不安だ」との連絡をしたのにも関わらず、支店では「問題ない」として対応しなかったというものだ。被害者は、3日後にパスワードが勝手に変更され4万ドルが送金されていたことに気づいた。 第2の事件では、被害者はオンライン口座を閉鎖したとのニセ・メッセージを受け取り指定された電話番号へ連絡したところ疑義のあるトランザクションに関する確認コードを送ると言われ、その後3万5000ドルが送金されてしまったという。シティバンクは、どちらのケースも自行に落ち度はなかったとして補償していない。 ■ 不正送金は検知可能だったのかテクノロジー面を考えると、より高度な不正検知ソリューションが導入されていれば犯罪者による不正送金が検知できたのではないかと考えられる。・バイオメトリックス連続認証:口座所有者本人のアクセスする際の癖(キー入力のスピード/パターンやアプリの使い方(スマホの傾き等))を記録しておき、それとは異なる動きでアクセスがあった場合にアラートを出す・上記にデバイスIDやIPアドレス(ロケーション・データ)を組み合わせて異常アクセスを検知する・AI/MLを活用し、通常とは大きく異なる送金額や送金先/送金パターン(異なる金額で同じ送付先へ連続送金がある等)を検知し、併せてパスワード変更等との関連を見出す ■ 訴訟の結末は?シティバンクは、現時点では「更なる不正防止と顧客の資産保護に取り組む所存だが、損失補償の義務には該当しない」との声明を出している。金融不正に関して金融機関が提訴されるケースは今回初めてだと思われ、その判断はCitiBankだけでなく今後の米国金融業界全体の不正防止への取組みに大きな影響を与えると思われる。今後の動きに注目しておきたい。
Susumu Suzuki
Japanese
|
February 4, 2024
post
生成AI活用でマネーロンダリング精査を効率化:Luci Copilot
マネーロンダリング対策には、様々なデータと多様な手段を活用したスクリーニングが行われていますが、犯罪の手口も時々刻々複雑化/巧妙化していることから、人手での精査が必要なアラートが増加し、結果、金融機関のマネーロンダリング対策現場には多大な負担がかかってます。この課題に対して、生成AIを使った要約/チャットでのQ&A/レポート作成機能等で担当者を支援するLucinity社のLuci Copilotの話題です。 ■ マネーロンダリング対策の課題昨今、金融犯罪に関するコンプライアンスに準拠するためには、複雑な手順が求められている。AIなどを使ったシステムによるスクリーニングも強化されているが、システムで判断が付きかねるケースはも増加しており、金融機関にとって精査作業の効率化が大きな課題となっている。 ・対象ケースに関する情報(送金元/送金先に関する様々な情報)は、社内外の複数のシステムにばらばらに存在しており、多様なデータベースやWebサイトにアクセスし情報収集しなければならない。 ・情報を収集した後、それらがどのような関連を持つのか(犯罪につながるのかどうか)明確でないケースがほとんどであり、調査を深めようとすればするほど時間がかかる。 ・システムで抽出したアラートには擬陽性(問題のない取引であるのに疑義があると誤認してしまう)も多く、結果人手による精査が必要なケースが増加している。機械学習を使ったスクリーニング・システムも開発されているが、まだ明確な効果は見られないようだ。 このため、金融機関の担当者は忙殺されており、精査の一貫性が損なわれたり、当局報告資料に不備が生じる等の悪循環に陥っている。 ■ Lucinity社のLuci Copilot2023年春にリリースされたLucinity社のLuci Copilotは、マネーロンダリングの精査業務を生成AIを活用して効率化するサービスだ。Luci Copilotは、社内のスクリーニング・システムで「アラート扱い」となったケースは関連する情報を社内外のシステムから収集し、1つの画面にまとめてスクリーニング担当者に提示する。 ・ケースの概要は生成AIを使って「Summary of Insights」としてまとめられる。担当者はなぜこのケースが「アラート」となったかを即時に理解できる。 ・Luci Copilotが収集した情報に対する質問をチャット・ボックスに入力すると、解説が提示されケースに対する理解が深まる(例:なぜビヘイビア・スコアが「ハイリスク」なのか解説がなされる)。 ・疑念があり当局報告が必要な場合、該当項目をチェックしてレポート作成を指示すれば、レギュレーションに準拠した報告書が自動作成される。 これらの機能の結果、アラート1件を処理する時間は、従来の20-25%程度にまで削減できるという。また、金融機関がスクリーニング担当者を養成する期間も大幅に短縮できると想定されている。...
Susumu Suzuki
Japanese
|
January 14, 2024
post
デジタル・トランスフォーメーションの狙いはCXによる差別化:米国企業の共通認識
世界中の企業がデジタル機能の更なる活用(デジタル・トランスフォーメーション:DX)に取り組んでいますが、流通業や金融業など商品による差別化が難しい業種(コモディティ化された商品/サービスを扱っている)の場合、デジタルを使ったカスタマー・エクスペリエンス(CX)の向上が唯一無二の差別化施策だとの認識が一般化しています。この背景を解説してみました。 ■ 流通業から学ぶユーザー・エクスペリエンスの好事例として取り上げられるのがAmazon.comだ。Webサイトのナビゲーションや商品の選びやすさ、チェックアウトの簡単さなどがアマゾンに対する信頼感/安心感を生み、結果的に価格競争に陥らず多数のリピーターを獲得して事業を拡大してきた。アップルのiPhoneやそのApp Storeも同様と言えよう。 インターネットとともに成長してきた世代(ミレニアル世代/Z世代)が社会人となり、デジタル・サービスに対する期待値がこれまでの世代とは根本的に変わってきた。米国の大手金融機関では、デジタル時代の差別化施策はCX向上策でしかないとの認識のもと、各社がWebサイト/モバイル・アプリの改善を担当するデジタル・チームを立ち上げている。例えば、米国最大手のJPモルガン・チェイス銀行の場合、2016年に1500人体制のDigital for Consumer & Community Banking部門を発足させた(発足時の部門トップはアクセンチュアから、No2はYahoo.comから招聘)。 ■ CX向上のために必要な道具だてCX改善の第一段階では、Webサイト/モバイル・アプリのデザイン(ユーザー・インターフェース:UI)面の改善が行われたが、次第に顧客ニーズの変化や他社の新施策に対する迅速な対応が、CX競争で落ちこぼれない施策だとの認識が広がった。そのために必要となるテクノロジーには、以下などがある:・アジャイル開発環境(API/マイクロサービス/DevOpsなど)・顧客チャネルの同期化(Webサイト/モバイル・アプリ/店頭/コールセンターが顧客情報をリアルタイム共有できる情報インフラ)・パーソナライゼーション推進(データ分析に基づくWebサイトの調整や商品提案など)・マニュアル処理の排除/最小化による時間短縮(口座開設/ローン審査などの自動化) これらを突き詰めた結果、データ・マネジメント環境の全面再構築やコアシステムの入れ替え(クラウド化)に進んだ企業もある。 ■ CX対策に終わりはない昨今、流通業でも金融業でも、顧客が求める品質の高いサービスとは、スピーディーでスムーズな対応と同義語であり、それがブランドに対する信頼感/愛着を生みロイヤリティを高めている。20世紀には人的リソースで良好なエクスペリエンスを提供することが行われてきたが、これを如何にテクノロジーで行うかが21世紀のDXだと言えよう。 更に、エクスペリエンス向上の対象は顧客に留まらず、社員(Employee Experience)や国民(Citizen Experience)に対しても必須だとの認識が広がりつつある。バイデン大統領も2021年12月に「政府サービスに対するCX向上で国民の信頼を回復するための大統領令」を発布、CX改善は連邦政府の行政改革の柱にもなっている。ITソリューション・ベンダーでも、機能の追加や設定変更がモバイル・アプリのような使い勝手で提供される次世代コアバンキング・システム等の開発が進んでいる。 自動車業界では、ガソリンエンジンから電気自動車への転換を見据えた変革が進んでいるようだ。デジタル・トランスフォーメーションに関する取り組みは、1950年代から始まったビジネスにおけるコンピュータ利用の大きな転換点のようにも思えるがどうだろう。
Susumu Suzuki
Japanese
|
January 7, 2024
post
API活用の近未来はERPバンキング?
2010年代後半、世界各地の規制当局は金融機関に対してAPI公開を義務化しました。当初、銀行はこのOpenAPIの流れに必ずしも積極的ではない印象でしたが、昨今では、顧客エクスペリエンス向上の視点から前向きな取り組みが行われています。ここでは、コマーシャル・バンキングにおけるトレジャリー管理サービスの新しいアプローチとしての、ERPバンキングをご紹介します。 ■ 銀行APIの活用に関する企業のニーズ2023年第三四半期、Datos Insightsでは、企業の財務部門/会計部門に対するグローバル・アンケート調査を実施したが(日本を含む11か国合計1000社)、金融機関とのAPI接続に関する設問に対して興味深い結果を得た。 Q1:融資手続きが迅速に行われるならば、データをAPI経由で金融機関に提供したいですか?A1:(ぜひ提供したい/提供したいの合計)会計データ=83%、CRMデータ=78%、ERPデータ=78%、受発注データ=76% Q2:自社で利用しているERPから、銀行が提供する金融サービス機能を直接利用できることは重要ですか?A2:(非常に重要/重要の合計)大企業93%、中堅企業93%、スモールビジネス81% 現在、金融機関におけるオープン・バンキングの取組みは、技術としてのAPI仕様を公開する形態が多いようだが、上記のアンケート結果からは、顧客企業はもう一歩踏み込んだ、APIを活用した統合ソリューションを求めていると思われる。 ■ Citizens Bankが提供するERPバンキング米国の準大手銀行で東海岸に支店網を展開するCitizens Bank(預金量1600億ドル(米ランキング13位)、支店網1000店舗)では、ERPへのプラグイン:ERPConnectの提供を開始している。ERPConnectは、Citizensが企業顧客に提供しているトレジャリー・マネジメント・サービスとペイメント機能をERPから直接利用できる仕組みで、買掛管理/流動性管理/取引照合などが可能となっている(現時点ではオラクルNetSuiteのみが対象:導入するとNetSuiteの「タブ」に「Citizens」が追加される)。 ERPは請求書を受領する毎にそこから必要な情報を読み込んで支払いデータを作成するが、ERPConnectを導入すると、各支払いデータは指定したタイミングで自動的に送金指示/小切手送付指示としてCitizens Bankへ送られる。一方、銀行からは決済が完了するまでの進捗が、企業のERPへリアルタイムで反映される。 ■ ERPバンキングの時代に?Citizens BankのERPConnectにより、ユーザー企業は自社ERPと銀行のトレジャリー・マネジメント用ポータルを使い分けることなく、ERPのダッシュボードだけで業務遂行が可能となる。ERPConnectの機能はまだ限定的だが、今後このようなERP/銀行サービスのインテグレーションが拡張され、更にAIを活用したデータ分析が加われば、財務部門の様々な業務の効率化やより効率的なトレジャリー・マネジメントが可能になると期待されている。 一方、機能拡充に加えて、サービスの価格体系や課金方式(ライセンス・フィー?/トランザクション・フィー?、顧客負担?/ERPベンダー負担?など)へのコンセンサスも必要になるだろう。Datos Insightsでは、2024年はERPバンキング元年になるのではないかと予想している。 (参照)・Datos Insights 2024年1月発行レポート「Top...
Susumu Suzuki
Japanese
|
December 26, 2023
post
ウクライナ大手銀行PrivatBank:ロシア侵攻から4か月でクラウド移行
ウクライナ政府が、ロシア侵攻直後に戸籍や土地台帳などをアマゾンAWS環境へ移行したことは広く報道されましたが、同国最大の銀行:PrivatBankも同時期にコアシステムをAWSへ移行していたことが、2023年11月に開催されたアマゾンのクラウド・イベント:AWS re:Invent 2023のインタビューで明らかになっています。これに関する報道をまとめてみました。 ■ ウクライナ政府システムのクラウド移行ウクライナ政府は、ロシアの侵攻が始まった2022年2月24日当日にイギリスでアマゾンAWSチームとコンタクト、翌週には戸籍や土地台帳のクラウド移行が開始され、4か月後の6月には同国政府や大学のシステム、小中高生に対するリモート教育システムなどがAWSで稼働した。迅速な移行が可能だった背景には、ロシア侵攻の1週間前、同国議会が政府や民間企業が所有するデータのクラウド移行を認める法案を可決していたことがある。 ■ ウクライナ最大の銀行:PrivatBankもクラウドへウクライナの商業銀行PrivatBankは、1100支店/ATM5000台を所有し、1800万人(人口の40%)に金融サービスを提供する同国最大の金融機関だ(クリティカル・インフラ企業でもある)。本社はウクライナ南東部のドニプロ市(ロシア国境から250㎞、現在はロシア占領地域から100㎞未満)にあり、ウクライナ国内2か所にデータセンターを設けていた。 ロシア侵攻後、PrivatBankはウクライナ政府と相前後してAWSへの移行を開始、アプリケーション270種、データ4ペタバイト、オンプレミス・サーバー3500台を実質2か月でクラウドへ移行した。同行にはAWS技術者が4名しかいない状況でのスタートで、アマゾンの多大な支援があったにしろ、移行の道のりは平坦だったとは言い難いようだ。 PrivatBankのIT部門責任者Mariusz Kaczmarek氏は、「大急ぎで引っ越したので、新居のトイレにベッドが運び込まれたり、冷蔵庫がバルコニーに設置されたような状況だった」と例えている。アマゾンとの正式契約も数か月後だったようだ。 ■ AWS利用の現状と今後移行から1年半が経過した現在、PrivatBankはコア・システムをクラウド上で稼働させているだけなく、新たなサービスのリリースも開始している。クラウド移行のリスクは「銀行が存亡の危機に直面した状況で、許容される範囲だった」との理解だ。今後のシステム環境に関しては「戦争が終結してもオンプレミスに戻す必要性は感じない」という。 ウクライナにおける金融インフラや政府システム/国民に関するデータのクラウド移行は、戦時下でのサービス継続だけでなく、戦後の復興にも大きな助けとなることが期待されている。
Susumu Suzuki
Japanese
|