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米国金融機関の生成AI活用状況

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2022年末のChatGPT発表以来、生成AIに関する関心が非常に高まり、金融機関でも様々な活用方策が検討されていますが、米国金融業界における実際の導入事例はまだそれほど多くないようです。ここでは、その背景を探るとともに、実績を挙げている事例をご紹介します。


■ 慎重な姿勢
金融機関における生成AIに対する関心は高いが、米国の場合、実際の導入にはかなり慎重だ。アメリカン・バンカー誌が2024年3月に発表した調査結果によると、回答のあった127行のうち、全社的な生成AI導入の取り組みを進めている金融機関は2行だけで、限定した業務で小規模な導入を行っているケースが15行、パイロット・プロジェクト段階が30行だった。残り80行は「情報収集段階」「導入計画なし」「不明」との回答だった。

慎重な姿勢の背景には「想定外の結果が出る(Unforeseenable results)」「意図しない差別的要素が含まれる(Unintentinonal biases)」「顧客情報の流出」など金融機関として致命的なリスクが生じる可能性に加え、今後、生成AIに関してどのような規制が制定されるかが不明なことも積極的な活用に踏み切れない要因のようだ。積極的に取り組んでいる金融機関でも「生成AIが出した結果を人間が精査してから活用する分野」を優先している。


■ 生成AI導入事例
生成AIを使ったシステム開発/ソースコード作成は有望な分野だ。シティバンクでは、GitHub Copilotをシステム開発要員(Developers)4万人全員が活用するプロジェクトを推進している。AMEXでもシステム開発メンバー6000人が2024年6月までに生成AIを活用できる体制を導入し、10%の生産性向上を見込んでいる。生成AIが作ったソースコードであってもテストは人間が実施するので、想定外の結果が含まれていてもそれを排除するのに大きな問題はないとの認識だ。

コールセンターのエージェント支援も生産性向上に寄与できる分野だ。AMEXでは、プレミアム・カードの所有者向けに旅行支援サービスを行っているが、「ペット同伴可能な高級リゾート・ホテルを知りたい」など、難しい要望の情報検索に生成AIを活用することで、待ち時間が1分程度短縮できたという実績があがっている。ディスカバー・カードでも複雑な問い合わせに対する社内情報検索に生成AIを用いると、エージェントが正解に到達できる時間が短くなったとしている。更に同社では、チャットボットで解決できない問題を(人間の)エージェントが引き継ぐ際、それまでのやり取りを生成AIが要約することで、エージェントが状況を短時間で把握でき、スムーズに引き継げる仕組みの導入を進めている。

このほか、Comerica銀行などでは、社内ヘルプデスクに生成AIを組み込んで質問の回答の中に該当資料へのリンクを提示することで、社員や対応要員の生産性向上に寄与できたとしている。


■ 今後の活用方策
生成AIの可能性は誰もが認めるところだが、予期せぬリスクも排除できない。そのため現時点では(1)マイクロソフトやグーグル等が提供する汎用生成AIを業務に活用して生産性向上につなげるアプローチ(会議結果の要約や原稿作成など)か、(2)生成AIが読み込む情報源を自社データに限定することで回答内容を想定内に納める方策(ディスカバー・カードやComerica銀行の事例)が用いられている。一部のユーザー企業では、オープンソースの生成AIを導入して自社内でそのアルゴリズムを把握した上、新たな活用を検討している企業もある。

いずれのアプローチも生成AIの良さを生かす方策第一歩として有望であり、その他様々な活用が試みられることは間違いない。生成AIをはじめとする人工知能活用の発展に、今後とも注目しておきたい。