日本では、セブン銀行やイオン銀行、昨今ではauじぶん銀行やJAL NEO Bankなど金融業以外の企業が銀行サービスを手掛けるケースが増えています。米国でも「BANK」と名乗ることはできないものの、金融機関のBaaS/エンベデッド・サービスを利用して実質的な金融サービスを提供する事例が登場しています。ここでは、Amazon.comがJPMorgan Chase銀行と連携して提供する金融サービスを取り上げてみました。
■ アマゾンが提供する金融サービス
米国では数年前まで、GAFAをはじめとする大手テクノロジー企業等が金融事業に参入するとの憶測があったが、流通事業者の銀行ライセンス取得が非常に難しいこともあり、日本のような流れにはなっていない。
ただアマゾン・ドットコムでは、消費者向けには「Amazon Visa Card/Amazon Prime Visa Card」を、マーケットプレースに出店する小売事業者にはペイメント・サービス「Amazon Seller Wallet」を提供しており、実質的に限定的な金融サービスを提供しているとも言える。前者はJPモルガン・チェイス銀行とのコブランド・カードであり、後者も同銀行のエンベデッド・ペイメント・サービス(BaaS)を利用している。
■ Amazonブランドのクレジットカード
Amazon.comが提供するクレジットカードは、アマゾン・ドットコムの商品や傘下のスーパーマーケット:Whole Foodsでの買い物に5%のキャッシュバックが付与される(プライムメンバーでない場合は3%)。更にガソリンスタンドとレストランでの利用には2%、その他すべてのカード利用に1%のキャッシュバックがつく。もちろんカード年会費は無料だ。
発行枚数は未公表だが、米国のプライム・メンバー1億6000万人のうち15%(2000万人程度)がアマゾン・プライム・ビサ・カードを保有していると推計されている。一方、JPモルガン・チェイス銀行のクレジット・カード発行総数は1億5000万枚なので、アマゾン・カードはその15%とも言える。
■ Amazon Seller Wallet
Amazon Seller Walletは、アマゾンがマーケットプレースで事業を行うマーチャントに対して提供しているサービスの一つで、商品仕入れなどに対する代金送金や様々な経費の支払い管理を一括して行える(手数料無料)。海外の仕入れ先に対しては外貨での送金が可能だ(こちらは手数料が必要)。アマゾンが提供しているマーチャント向け総合ポータル:Seller Centralとも連携しており、事業者名義の他行口座との資金のやり取りやキャッシュ・マネジメント、データ分析ツール等も提供される。
このサービスの背後では、JPモルガン・チェイス銀行のEmbedded Payments(BaaS)がチェッキング口座を提供しており、そこから代金送金や事業者名義の他銀行口座との資金のやり取りが可能となっている。もちろんSellers Wallet口座開設時のKYC等もチェイスが提供している。
■ BaaSの機能拡張
JPモルガン・チェイス銀行は、このEmbedded Paymentsサービスを、アマゾンの他、大手百貨店のMacy’s Marketplaceや化粧品ブランド:L’OrealのB2Bマーケットプレースへも提供している。同行では、BaaSの機能拡張を進めており、マーチャントへのローン機能の開発やヘルスケア業界など小売り事業以外への進出を進めている他、フォルクスワーゲンとは車内コマースへの適用を共同研究しているという。
一時は銀行業への進出がうわさされたAmazon.comだが、実質的には消費者やマーチャント向け金融サービスを着実に進めていると言えよう。一方、JPMorgan Chase銀行も大手IT企業の金融業進出を阻止しつつ、「名を捨てて実を取る」作戦を推進中と思われるがどうだろう。