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米キャピタル・ワン銀行のディスカバー・カード買収提案を解説する

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2024年2月19日、米国ではCapital One FinancialがDiscover Financialを353億ドルで買収する提案を発表しました。日本ではなじみのない両社ですが、クレジット・カード業界に大きな変化をもたらす可能性があり、米国金融業界では注目が集まっています。その概要を解説してみました。


■ Capital One Bankの歴史、Discover Cardの歴史
Capital One Financial(キャピタル・ワン)は、1994年にシグネット銀行(バージニア州)のカード部門がスピンオフして誕生、当初はクレジット・カード専業企業として比較的信用度が低い顧客に対して徹底したリスク管理を武器にカード事業を伸ばしてきた。その後、銀行数行を買収して銀行業務にも進出、現在ではクレジット・カード残高で全米第4位(2023年1229億ドル)の大手金融機関だ。信用度の低い顧客へのカード発行にはデータ分析が必須であるため、創業当初からデータ活用に非常に積極的な企業だった。最近では、大手金融機関として初めてコア・システムのパブリック・クラウドへ全面移行を完了するなど、デジタル・トランスフォーメーション最先端企業としても知られている。

一方のDiscover Financial(ディスカバー・カード)は、1985年、当時米最大手百貨店だったシアーズのカード部門として発足、その後モルガン・スタンレー傘下となり2007年のスピンオフを経て上場企業となった。2023年のクレジット・カード残高は940億ドルと全米第6位だ。米国では、クレジット・カードのアワードとしてキャッシュ・バックが定着しているが、ディスカバーはCash Backを提供した最初のカード会社だった。ブランド・イメージは、AmexやVisa、MasterCardには及ばないものの、Webサイトの使い勝手など顧客満足度調査では毎年他社をしのいでいる。

ディスカバー・カードの大きな特徴として、カード発行機能とカード・ネットワークを兼ね備えている点がある(AmexやJCBと同様:米国では銀行はカード発行に注力し、カード利用/決済はVISAかMasterCardが提供するネットワークを利用するケースが大多数である)。キャピタル・ワンCEOのフェアバンク氏は、買収提案発表の際、ディスカバー・カードのネットワークに大きな価値を見出したと説明した。


■ 立場により異なる合併の影響
(カードネットワーク)
今回の合併は、米国に4つあるカード・ネットワーク(VISA/MasterCard/Amex/Discover)の1社が大手銀行と一体となることを意味する。現在VISAとMasterCardのシェア合計は75%程度だが(Amex=20%、Discover=4%程度)、キャピタル・ワンは、現在のVISA/Master利用を順次自社ネットワークへ切り替えると思われ、カード・ネットワークの競争激化が予想される。買収発表後、VISAとMasterCardの株価は下がり気味だ。

(銀行:カードローン提供者として)
クレジットカードの利用残高は、JPモルガン・チェイス銀行が1914億ドル(2023年度)で第1位だが、キャピタル・ワンとディスカバーが合併すれば利用残高の単純合計はJPモルガンを上回ることになり、一部の政治家や消費者保護団体からは競争を阻害し消費者に有害だとの意見が出ている。また、米国では金利水準が高まる中クレジット・カード残高も増えており、景気動向次第では延滞リスクが高まる可能性を懸念する声もある。

(金融当局の承認)
このように、今回の合併案には競争を促進する面と阻害する面があるため、当局から合併計画の承認が得られるかどうかは流動的だとの意見もあるが、Datos Insightsのアナリストは、最終的には合併の承認が得られる可能性は高いのではないかと捉えている。


■ 大きな期待
合併が成立した場合のメリットに言及してみたい。米国のクレジットカード業界は、VISA/MasterCardをネットワークとする大手銀行発行のカードが大多数を占めており、ネットワークと発行体が一体となったAmexとDiscoverは存在しているものの、前者は富裕層やコーポレート・カード利用が中心であり、Discoverはシェアが小さくブランド・イメージも高くない。

キャピタルワンは、カード発行とネットワークを一体化することで、VISA/Masterへのネットワーク利用料を節減できるだけでなく、カード発行とネットワークが一体であることを生かした様々なサービスを打ち出してくると思われる。しかも、キャピタル・ワンとディスカバーはどちらも大衆顧客層に強い金融機関で、高いデータ分析力/リスク管理能力を持ち、カスタマー・エクスペリエンスでの評価も高い。合併に対する当局の可否判断は、2024年末から2025年初頃と想定されているが、米国大統領選挙の影響も考えられる。今後の論議の行方に注目しておきたい。