BLOG POST

ウクライナ大手銀行PrivatBank:ロシア侵攻から4か月でクラウド移行

/

ウクライナ政府が、ロシア侵攻直後に戸籍や土地台帳などをアマゾンAWS環境へ移行したことは広く報道されましたが、同国最大の銀行:PrivatBankも同時期にコアシステムをAWSへ移行していたことが、2023年11月に開催されたアマゾンのクラウド・イベント:AWS re:Invent 2023のインタビューで明らかになっています。これに関する報道をまとめてみました。


■ ウクライナ政府システムのクラウド移行
ウクライナ政府は、ロシアの侵攻が始まった2022年2月24日当日にイギリスでアマゾンAWSチームとコンタクト、翌週には戸籍や土地台帳のクラウド移行が開始され、4か月後の6月には同国政府や大学のシステム、小中高生に対するリモート教育システムなどがAWSで稼働した。迅速な移行が可能だった背景には、ロシア侵攻の1週間前、同国議会が政府や民間企業が所有するデータのクラウド移行を認める法案を可決していたことがある。


■ ウクライナ最大の銀行:PrivatBankもクラウドへ
ウクライナの商業銀行PrivatBankは、1100支店/ATM5000台を所有し、1800万人(人口の40%)に金融サービスを提供する同国最大の金融機関だ(クリティカル・インフラ企業でもある)。本社はウクライナ南東部のドニプロ市(ロシア国境から250㎞、現在はロシア占領地域から100㎞未満)にあり、ウクライナ国内2か所にデータセンターを設けていた。

ロシア侵攻後、PrivatBankはウクライナ政府と相前後してAWSへの移行を開始、アプリケーション270種、データ4ペタバイト、オンプレミス・サーバー3500台を実質2か月でクラウドへ移行した。同行にはAWS技術者が4名しかいない状況でのスタートで、アマゾンの多大な支援があったにしろ、移行の道のりは平坦だったとは言い難いようだ。

PrivatBankのIT部門責任者Mariusz Kaczmarek氏は、「大急ぎで引っ越したので、新居のトイレにベッドが運び込まれたり、冷蔵庫がバルコニーに設置されたような状況だった」と例えている。アマゾンとの正式契約も数か月後だったようだ。


■ AWS利用の現状と今後
移行から1年半が経過した現在、PrivatBankはコア・システムをクラウド上で稼働させているだけなく、新たなサービスのリリースも開始している。クラウド移行のリスクは「銀行が存亡の危機に直面した状況で、許容される範囲だった」との理解だ。今後のシステム環境に関しては「戦争が終結してもオンプレミスに戻す必要性は感じない」という。

ウクライナにおける金融インフラや政府システム/国民に関するデータのクラウド移行は、戦時下でのサービス継続だけでなく、戦後の復興にも大きな助けとなることが期待されている。