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デジタル・トランスフォーメーションの狙いはCXによる差別化:米国企業の共通認識

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世界中の企業がデジタル機能の更なる活用(デジタル・トランスフォーメーション:DX)に取り組んでいますが、流通業や金融業など商品による差別化が難しい業種(コモディティ化された商品/サービスを扱っている)の場合、デジタルを使ったカスタマー・エクスペリエンス(CX)の向上が唯一無二の差別化施策だとの認識が一般化しています。この背景を解説してみました。


■ 流通業から学ぶ
ユーザー・エクスペリエンスの好事例として取り上げられるのがAmazon.comだ。Webサイトのナビゲーションや商品の選びやすさ、チェックアウトの簡単さなどがアマゾンに対する信頼感/安心感を生み、結果的に価格競争に陥らず多数のリピーターを獲得して事業を拡大してきた。アップルのiPhoneやそのApp Storeも同様と言えよう。

インターネットとともに成長してきた世代(ミレニアル世代/Z世代)が社会人となり、デジタル・サービスに対する期待値がこれまでの世代とは根本的に変わってきた。米国の大手金融機関では、デジタル時代の差別化施策はCX向上策でしかないとの認識のもと、各社がWebサイト/モバイル・アプリの改善を担当するデジタル・チームを立ち上げている。例えば、米国最大手のJPモルガン・チェイス銀行の場合、2016年に1500人体制のDigital for Consumer & Community Banking部門を発足させた(発足時の部門トップはアクセンチュアから、No2はYahoo.comから招聘)。


■ CX向上のために必要な道具だて
CX改善の第一段階では、Webサイト/モバイル・アプリのデザイン(ユーザー・インターフェース:UI)面の改善が行われたが、次第に顧客ニーズの変化や他社の新施策に対する迅速な対応が、CX競争で落ちこぼれない施策だとの認識が広がった。そのために必要となるテクノロジーには、以下などがある:
・アジャイル開発環境(API/マイクロサービス/DevOpsなど)
・顧客チャネルの同期化(Webサイト/モバイル・アプリ/店頭/コールセンターが顧客情報をリアルタイム共有できる情報インフラ)
・パーソナライゼーション推進(データ分析に基づくWebサイトの調整や商品提案など)
・マニュアル処理の排除/最小化による時間短縮(口座開設/ローン審査などの自動化)

これらを突き詰めた結果、データ・マネジメント環境の全面再構築やコアシステムの入れ替え(クラウド化)に進んだ企業もある。


■ CX対策に終わりはない
昨今、流通業でも金融業でも、顧客が求める品質の高いサービスとは、スピーディーでスムーズな対応と同義語であり、それがブランドに対する信頼感/愛着を生みロイヤリティを高めている。20世紀には人的リソースで良好なエクスペリエンスを提供することが行われてきたが、これを如何にテクノロジーで行うかが21世紀のDXだと言えよう。

更に、エクスペリエンス向上の対象は顧客に留まらず、社員(Employee Experience)や国民(Citizen Experience)に対しても必須だとの認識が広がりつつある。バイデン大統領も2021年12月に「政府サービスに対するCX向上で国民の信頼を回復するための大統領令」を発布、CX改善は連邦政府の行政改革の柱にもなっている。ITソリューション・ベンダーでも、機能の追加や設定変更がモバイル・アプリのような使い勝手で提供される次世代コアバンキング・システム等の開発が進んでいる。

自動車業界では、ガソリンエンジンから電気自動車への転換を見据えた変革が進んでいるようだ。デジタル・トランスフォーメーションに関する取り組みは、1950年代から始まったビジネスにおけるコンピュータ利用の大きな転換点のようにも思えるがどうだろう。