2015年創業のAIを活用するインシュアテック企業:レモネードでは、オンラインでの保険料見積り/即時引受けに加え、保険金申請(クレーム申請)にもチャットボット/自然言語処理を活用、カスタマー・エクスペリエンスに注力したデジタル・インターフェースを提供しています。顧客数も200万人を超え損害率も改善してきたことから、今後の進展が注目されています。
■ 企業概況:レモネード保険
2015年創業のAIをフル活用したインシュアテック企業:レモネードは、火災保険(持ち家用/借家人用)から事業を開始したが、その後自動車保険/ペット保険に進出、更に現在は生命保険(定期保険のみ)も提供しており、2024年初の顧客数は209万人と発表されている。フランスやオランダなど海外への進出も始めている。
同社の特徴は、オンラインだけで保険契約を締結できることに加えて、事故が起こった際のクレームもチャットボットで処理できることだ。保険申込みの際は、住所から建物に関する情報を、また申込者の名前/生年月日/社会保障番号から本人に関する情報をリアルタイムで収集する。さらに住宅に関する質問に回答してもらうことで即時に見積金額を提示、顧客が望めばその場で契約締結が可能となる。
一方、保険金の申請が必要になった際、ユーザーは、モバイル・アプリからチャットボット:AI Jimに状況を説明することになる。申請の30-50%はAI Jimとのやり取りだけで保険金支払いの判断がなされる。背後では、保険金申請の内容と契約内容との精査や、様々な不正を検知できるアルゴリズムが稼働しているという。もちろんAIだけで判断できないケースには、(人間の)スタッフが対応することになる。
■ 保険申込みに実際
レモネード保険で個人住宅保険の見積りをとってみた。まず住所を入力すると築年数や平米数が表示され確認を求められる(上書き可能)。更に外壁や床の素材、屋根をふき替えたかどうか(変更した場合はおおよその年数)、その他建物内の配管や配電、冷暖房の仕組み、地下室の有無など15程度の質問が出される(分からない場合は「不明」回答も可)。現在住宅保険を契約している場合、その補償限度や免責額を入力すると、現状と同じ前提条件で保険料金が提示される(入力しない場合は、推奨補償額が提案される)。
筆者の場合、提示された見積額は現状の住宅保険(AllState)と大差ない金額だったため、契約変更には至らなかったが、5年程前にAllState保険で住宅保険を締結した際の手間(まず保険会社の検査人に査定に来てもらうアポイントをとり、その後1週間程度で営業担当から見積もり金額がメールで提示される)に比べ、非常に簡便なことを実感した。
■ 今後の期待
創業当初より、保険分野でのAI活用最先端と考えられているレモネードだが、生成AIをはじめとする昨今のAI技術の進展は追い風だと言えよう。同社も、2023年度の株主向けレターにおいて「生成AIをあらゆるビジネス・プロセスの改善や生産性向上に役立てる方針であり、18か月を目途に成果がでてくると考えている」としている。既に顧客が申告した住宅に関する情報の評価や顧客からのemailへの回答などには、生成AIの活用を始めているようだ。
企業としての業績も、2023年末時点の保険料収入は8億ドル(前年22%増)、顧客数は209万人(同13%増)と順調な成長を続けており、まだ最終収益は赤字であるものの、損害率(Gross Loss Ratio:保険料収入に対する支払い保険金の割合)も79%まで下がり、一般的な指標と言われる75%以下にもう一息のところまできた。2020年の新規上場のあと、2022年頃からは株価の低迷が続いている同社だが、昨今の市場状況からインシュアテックの雄として見直し機運もでているようだ。レモネード保険の動向、及び保険業界でのAI活用全般に注目しておきたい。