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AIの活用:ウェルス・マネジメント業界の場合

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昨年末のChatGPTのリリースをきっかけに、ビジネスにおけるAI活用論議が活発化しています。ここではウェルス・マネジメント業界でのAIに関する認識をヒアリング調査と事例研究からまとめてみました。 2023年10月発行のレポート:Accelerating Generative AI Into Wealth Managementも併せてご参照ください。


■ AI活用に関する調査
Datos Insightsでは、ウェルス・マネジメント企業18社をResearch Council Memberとして組織化しており(ワイヤハウスやその他大手/中堅Wealth Management企業やRIA等がメンバー)、2023年第三四半期にメンバー企業各社に対してAI活用に関する調査を実施した。

それによると、これまでバックオフィスの効率化や不正防止分野が中心だったAIの活用は、昨今、フロントオフィスでの利用(フィナンシャル・アドバイザーの生産性向上やカスタマー・エクスペリエンス改善、顧客とのリレーションシップ・マネジメントへの応用、マーケティングの精度向上など)に注目がシフトしている。ただ、投資に見合う生産性向上が期待できるのかは見極めづらく、適正な予算規模も分からない状況である。生成AIに関しても、トライアルは行われているものの、顧客が直接使うには時期尚早との認識だ。


■ 事例
ここではウェルス・マネジメント企業のフロントオフィスにおけるAI活用の事例を集めてみた。

(1)メリルリンチ:Client and Advisor Insights
2018年、モルガンスタンレーがAIを使ってアドバイザーの行動指針を示すNext Best Actionをリリースしたが、そのメリルリンチ版とも言えるClient and Advisor Insightsの利用は2019年に始まっている。これは顧客情報やアドバイザーとのやり取りをマルチ・チャネルで分析し、新規ビジネスやリレーションシップ強化の可能性(新規資金の獲得/ローンのニーズ/アドバイスの拡張方向など)をリストアップしてFAに示すものだ。ビジネス機会にはバンク・オブ・アメリカの銀行商品も含まれており、今後Tax Harvestingなども加わるという。顧客との会話/Eメールのサンプルに生成AIが活用されている点も興味深い。

(2)アライアンス・バーンスタイン:AIチャットボット
アライアンス・バーンスタインは、超富裕層に特化したウェルス・マネジメント企業で、顧客の資産ポートフォリオを構築/変更する際には、アドバイザーは多種多様な投資商品を比較検討する必要がある。

2022年にリリースされたAIチャットボットは、社内の複数のシステムで保持されている投資商品に関する情報検索をチャットボットで代替するもので、例えば、あるファンドに関する情報(組成方針/フィー/流動性など)を引き出すのに、これまで10分を要したものが30秒で到達できるようになったという。同社ではリリース後8か月間でFA500人の作業時間が合計900時間節約できたとしており、FAの意見を基にAIチャットボットの改善を進めている。

(3)カイシャバンク(CaixaBank:スペイン第三位の大手行)
カイシャバンクでは、これまでウェルス・マネジメント顧客を資産額と年齢でセグメント分けしていたが、2019年、AIを活用して顧客の行動様式やパーソナリティなど1000以上の要素を分析して8つにセグメントに分割し直し、リレーションシップ強化を目指した。結果、適切なパーソナライゼーションが可能になり、アップ・セルに効果があったという。


■ 「データの量と質」がAIのアウトプットを決める
現在注目されているAI技術は、いずれも、大量のデータを使った機械学習/深層学習に立脚していることから、学習に使うデータの量と精度がアウトプットを決定づけると言っても過言ではない。AI活用を進めるウェルス・マネジメント企業各社も、トライアルの結果、現在あるデータでは精度が低い/更新タイミングがバラバラなどの問題に直面しており、AI利用を成功させる前提として、データ・マネジメントの高度化が必須だとの認識を強めている。

また、顧客のセルフサービスやポートフォリオ管理に対するAIの本格活用は、まだ時期尚早と認識されているが、SECがAI活用に関して投資家保護最優先の姿勢を打ち出していることもあり、各社は、テクノロジーの試行と並行してレギュレーションの動向にも注目している。引き続き、AI活用に関する業界全体の動きをフォローしていきたい。