Datos Insights社では、金融機関のExecutiveを中心にRetail Banking Executive Councilを組織化していますが、2023年第二四半期にメンバー企業27社にお集まりいただいた会合で各社のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の取組み/進捗状況を伺いました。その結果をレポート:Steppingstones to Digital Transformation: Banks Assess Their Progressとして発刊しましたが、ここではその概要をご紹介します(レポートでは各取組みに活用されている主要ソリューションも紹介しています)。
■ デジタル・トランスフォーメーションに関する質問内容
Retail Banking Executive Councilは、金融機関を中心とした会員組織で、年4回の会合(Face-to-face/バーチャルあり)を開催し様々なテーマの情報交換を行っている。企業規模は様々で、金融業界全体の方向感を理解する貴重な場ともなっている。
2023年6月に実施した会合では、デジタル・トランスフォーメーションに関する質問を準備し各行の状況を伺った(匿名回答)。主な質問項目は以下のとおり:
(1)デジタル・サービス(モバイル・アプリ/Webサイトでの金融機関の全サービス(口座開設なども含む)の提供状況)
(2)システムのモダナイゼーション(アジャイル・バンキングを実現するための手法/ツール(API/マイクロサービス/DevOps/アジャイル開発など)の導入状況)
(3)カスタマー・エクスペリエンス改善(パーソナライゼーション/複数チャネルの同期化など)
(4)データ活用に関する取り組み/データ分析環境の整備(顧客の行動分析/嗜好分析などの実施状況)
(5)業務処理の効率化/自動化(口座開設/ローン審査など)
(6)イノベーション/アジャイル・カルチャーの導入(システム開発面だけではなく、商品開発手法や意思決定プロセスなども含む)
その他、コア・システムの入替え計画やAPI/マイクロサービス活用戦略、従業員エクスペリエンス向上策、データ・アグリゲーション、CRMなどの取組みも聞いた。
■ 調査結果と成功要因/遅延原因
(1)(2)(3)(5)に関しては、取組みのない金融機関は皆無だった。進捗レベルは様々であるが(1)(2)(5)では計画を完了と回答した銀行もそれぞれ1社づつあった。一方(4)と(6)に関しては、計画を完了したとの回答がそれぞれ2社づつあったものの、未着手と回答した金融機関も存在した。完了回答は比較的小規模な金融機関からだった。
計画が遅れる/うまく進まない要因としては、「経営上の他の課題が優先された/予算が確保できない」「社内カルチャー」「レガシーシステムが障害」がトップ3を占めた。一方デジタル・トランスフォーメーションがうまく進んだ背景としては「目標の明示と優先順位付」「トップのコミットメント」「ビジネス・サイドとITサイドの協調がうまくいった」が挙げられた。
■ 長期計画(Roadmap)策定の必要性
一方(3)カスタマー・エクスペリエンス(CX)改善は「計画完了」との回答がなく、またディスカッションの結果からも「CX改善は優先順位が高いが、ゴールのない(=完了を定義できない)継続した取り組み(ジャーニー)である」との認識が定着していることが分かった。
同様に、セキュリティ対策やシステム・アーキテクチャー、業務プロセス、レギュレーション対策なども大きな方向性を示した上で継続した取組みが必要があり、その中で新しいテクノロジーの把握と評価、必要に応じたインフラの導入などを検討していく必要があるとの理解が広まっていることが把握できた。日本の金融機関各社の認識はどうだろう。