Bank of AmericaメリルリンチのLife Planなど、米金融機関のモバイル・アプリは、ミレニアル世代/Z次世代の新規開拓を狙うケースが主流ですが、Wells Fargo Advisorsが本年リリースしたモバイル・アプリ:Life Sync(ライフ・シンク)は、ウェルス・マネジメント富裕層顧客とのリレーションシップ強化を支援するサービスと位置付けられています。
■ Life Syncの位置づけ
ウェルズ・ファーゴ銀行のウェルス・マネジメント事業であるWells Fargo Advisorsは、フィナンシャル・アドバイザー1万2000人規模、WM顧客260万人/預かり資産総額1兆9000億ドルと米大手四大証券(ワイヤハウス)の一角を占める。2023年2月、同社は、顧客とFAとのリレーションシップ強化ツールとして、モバイル・アプリ:Life Syncを発表した。
他のウェルス・マネジメント企業の場合、モバイル・アプリは、マス富裕層セグメントやミレニアル世代顧客を開拓する手段、或いはロボアドバイザーの機能補完と位置づけられているが、ウェルズ・ファーゴの場合、フルサービスを提供している富裕層顧客とのリレーションシップ/満足度/エクスペリエンス向上を目指している点が興味深い。
■ Life Sync概要
Life Syncでは、3つの機能が提供されている:
(1)フィナンシャル・ゴールの設定とトラッキング
・ゴールの設定/変更のセルフサービス機能:通常FAとのミーティング時(四半期毎/半年毎など)に、ゴールの追加/見直しが行われるが、それを顧客自身がいつでも実施できる。
・設定するゴールは、Face-to-Faceでカバーされているものと同様(退職資金/子供の教育資金/別荘購入など)。
・顧客のデジタル嗜好が強まる中、いつでも利用できるアプリの方が、顧客の意向が正確にゴールに反映されるとの認識が高まった(ミーティングよりもアプリの方が本音の把握に有効)。
・顧客の考えが正しく把握できれば、アドバイス内容も的確になり、顧客のエクスペリエンス/満足度が向上しリレーション強化につながるはず・・・。
(2)金融資産ダッシュボード
・自身の保有資産全体像や運用ポートフォリオ等のスナップ・ショット表示
(3)金融関連コンテンツ
・本人の嗜好に合うようパーソナライズされたビデオ・クリップ/ポッドキャストなどへのアクセス
・話題は、アセット・アロケーションや市場ニュース/エコノミスト解説に加え、有名人のお金に対するコメントなどエンタメ性も兼ね備える。
Life Syncのアプリ作成には、背後ではeMoney Advisorのフィナンシャル・プランニング・ツールが活用されている。また、顧客がアプリを閲覧したり入力/変更した内容はすべてFAにも通知が行くことになっており、顧客対応やアドバイスへ反映することが期待されている。
■ ウェルズ・ファーゴのデジタル戦略
Wells Fargoでは、スマホの利用時間が毎日数時間に達する人も多い中、同社のアプリもSNSのように頻繁にアクセスしてもらうことを狙っているという。また今後は、アプリの機能を拡張しつつ(チャットボットを使ったデジタル・アドバイス機能やロボアドバイザーの補完サービスなど)、富裕層顧客だけでなく銀行顧客向けのサービス拡大も目指すという。
米国のウェルス・マネジメント業界では、様々なモバイル・アプリが登場しているが、アプリの狙いや対象顧客が様々であり(新規顧客開拓を目指す/既存顧客の満足度向上/若年層顧客対応/銀証連携など)、まだ暗中模索の段階と言えよう。今後どのようなアプリが登場し何が顧客ニーズとマッチするのか、引き続き注目しておきたい。