NY州のPaxos Trust Company(2012年にビットコイン取引所:itBitとして創業)は、2019年10月、SECからブロックチェーンを使った証券決済サービス:Paxos Settlement Service(PSS)に対して2年間の限定認可を取得しサービスを開始しました。アイテ・ノバリカ・グループでは、サービス終了を期に、提供されたサービスの概要と参画した金融機関の評価をレポート:Paxos Securities Settlement: Creating an Alternative Equity Clearing and Settlement Model in the U.Sにまとめました。
■ 証券業界のポスト・トレードに関する課題
証券取引にともなうポスト・トレード(処理清算/決済処理)は、早くからシステム化が進んだ分野だが、長年の間に様々な改良が加えられたことで、今日では非常に複雑なシステムとなっている。証券業界では、ポスト・トレード処理の現状に対して、リスク管理(決済リスク/流動性リスク/決済リスク)や、効率性(資本効率/業務効率)の面で改善の余地があるとの認識がある。
ビットコインの登場以来、その基幹技術であるブロックチェーンをポスト・トレード業務に活用すれば、クリアリング・セトルメントの効率化/迅速化が可能になると考えられてきたが、現状業務との互換性や置き換え手順が詳しく検討されなかったことから、机上の論議に留まっていた。
■ ブロックチェーンによるソリューション
2019年10月、NY州のPaxos Trust Companyが、SECからブロックチェーンを使ったポスト・トレード・ソリューション:Paxos Settlement Service(PSS)に対する2年間のパイロット・サービス認可を取得した。これは、米国証券取引所決済機関(NSCC)が提供している既存の清算/決済処理と共存可能な仕組みで、認可内容は、米国株式に関して最大7社にのみサービスを提供でき、一日当たりのトレード数も制限されている。
PSSのコンセプトは、中央清算機関(CCP)を経由しない当事者同士の相対決済モデルだが、当日決済のため決済リスクは最小限、証拠金が不要であることから資本コストも低い。また清算/決済の全工程がトラッキングできるので透明性が高い。いわばCCP経由と相対決済の長所を組み合わせた方式と言えよう。トレーディング業務は従来通り、また取引後の株式保管もDTCCを利用する方式であることから、従来からある米国証券取引所決済機関(NSCC)による清算/決済と併存が可能となっている。
■ 試行サービスに参加した金融機関の認識と今後
PSSの試行サービスには、クレディスイス、インスティネット、ソシエテジェネラル、バンク・オブ・アメリカなどが参画した。参加企業の評価は良好で、以下のようなコメントが得られている:
・クリアリングに関するコストを半分以下に下げられそうだ。
・CCPへの預託する証拠金が不要となり資本コスト面のメリットがあるだろう。
・清算/決済業務に複数サービスが登場し、併用も可能になることで競争が生じ、結果イノベーションが進むことが期待される。
・システム面では、取引毎にNCSS清算かPSS清算かを指示する必要があるが、システムの修正など導入初期コストは最小限で済んだ。
・NCSSとの互換性があり、トレーディング業務と株式保管業務に変更が必要ない点が良い。
Paxos Trust Companyでは、今後、参加金融機関を募り(バイサイド企業も含む)、2022年中にもサービスを正式化したい意向だ。同社の動きに注目しておきたい。