コロナ・パンデミック発生以来、健康診断が必要となる高額の生命保険の新規加入が激減した生命保険業界ですが、生保各社は、電子カルテ・データ(EHR)やその他のオルタナティブ・データを活用して加入審査をすることで、健康診断なし、かつ迅速に保険契約を締結する方策を模索しています。アイテ・ノバリカ・グループでは、昨今の取組みをレポート:Rethinking Life Insurance Underwriting: Leapfrog Competition, Delight Customersにまとめています。ここでは、その概要をご照会します。
■ パンデミックによる生命保険申込みの減少
生命保険会社では、保険の営業対象がミレニアル世代/Z世代にシフトするにつれ、ネット販売の強化やオムニチャネル活用など、新世代の「期待値」に合わせた保険販売策を模索している。コロナ・パンデミックでは、健康診断が必要となる補償額100万ドル以上の生命保険の販売が激減したことから、生保各社は、健康診断不要の上限を300万ドルに引き上げるなどの緊急対策を講じているが、抜本的な対策としてデータを活用した加入審査のデジタライゼーションを急ぎ始めた。
これまで生命保険の加入審査では、本人の申告情報に加え心電図などの健康診断結果と医師の診断書、更に一部ではクレジット・ヒストリー(信用度スコア)、自動車保険の利用履歴などが利用されているが、デジタライゼーションの本命は、健康診断に代わる電子カルテと電子健康診断履歴(EHR:Electronic Health Record)を使った、加入審査の自動化だ。
■ EHR(Electronic Health Record)活用の試行錯誤
米国では、患者と関わる複数の医師(かかりつけ医や専門医、地域の大病院など)や薬剤士、看護士などの医療関係者が、患者のEHRをお互い参照できるよう、2000年前後から州政府の支援を受けたHIE(Health Information Exchange)が各地に設置されている。
生命保険会社の電子カルテ利用も(保険申込み者の承諾を前提として)HIEが保持しているEHRの利用をめざしており、各HIEからEHRを入手して生命保険会社向けに加工/提供するEHRデータ・ベンダーも出現している。ただ、各HIEが保持しているデータは様式が標準化されておらず、ストラクチャー・データ/アンストラクチャー・データが混在していることから、各データ・ベンダーのサービス内容にも一長一短がある。パイロット・プロジェクトでは、複数のベンダーを利用して、比較している生保も多い。
■ 今後の動き
保険会社各社では、まずはEHRの活用で健康診断を置き換え、保険料を迅速に決定して契約締結につなげることを狙っている。これは、カスタマー・エクスペリエンスの改善とコスト削減の両立を狙う施策だが、各社はパイロット利用から「前向きな感触」を得ているという。
今後は、AI/MLの活用や予測分析手法の最適化を目指すとともに、スマホアプリやIoT機器を使った顧客の運動量の把握や身体に関するリアルタイム情報、家族の病歴や遺伝子情報などの活用が試みられると思われる。同時にプライバシー問題や公平性(人種間でDNAの違いによる履歴と寿命の傾向が分かった場合、人種差別にならないか等)への配慮が必要になると考えられており、新なレギュレーションが出現する可能性もある。
コロナ・パンデミックがきっかけとなって、パイロット利用が本格化した生保加入審査のデジタライゼーションだが、今後どのように進展していくのか注目しておきたい。