BLOG POST

資産セグメント別ウェルス・マネジメント・サービス:米国の場合

/

日本では2003年に「貯蓄から投資へ」というスローガンが打ち出され、昨今では「貯蓄から資産形成へ」と進化しています。米国でも個人が資産形成を目指す方向は同じですが、ウェルス・マネジメント企業にとっては、世帯の資産状況に応じたセグメンテーション・アプローチが有効だと考えられています。ここでは2023年1月に発行したレポート:Balance Sheets of the American Investor : An Analysis of the Survey of Consumer Finance から、米国のウェルス・マネジメント業界におけるセグメント分けとサービス内容の考え方をご紹介します。

■ ネットワース(Net Worth)別アプローチ
「ネットワース」は会計用語で企業の総資産額から総負債額を引いた金額を示すものだが、ウェルスマネジメント業界では、これを家計のセグメンテーションに応用している。ここではネットワース別にウェルス・マネジメント企業が提供すべきサービスの考え方をご紹介する(一般的には「世帯のネットワース」=「金融資産」+「非金融資産(住宅など)」ー「負債(住宅ローンなど)」と考えられる)。

(1)世帯資産10億円以上(ウルトラ・ハイ・ネットワース(UHNW)層)
このセグメントの多くが自営業経営者で、資産の大部分が株式/投資ファンドなどの投資商品(金融資産)と事業資産/自宅など(非金融資産)である。このクラスに対するウェルス・マネジメント・サービスは以下のような視点が必要となる。
・全資産に対するフル・サービスの提供(ウェルス・プランニング/投資/借入/税金対策など)
・資産に関する移行対策アドバイス(相続/リタイアメント/寄付など)
・金融資産のみならず、不動産投資機会などを提供するとともに不動産の管理サービスの紹介
・プライベート市場への投資機会の提供(ただし流動性にも留意すること)

(2)1億円から10億円未満(ハイ・ネットワース(HNW)層)
このセグメントの資産形成の目的は主にリタイアメント対策であり、資産額の過半数が優遇税制下の確定拠出口座(401k/IRAなど)で保有されているケースが多い。UHNW層と同様、リスクの高い商品を保有しているケースもあるが、投資額ははるかに少ない。
・UHNWと同様、資産の全カテゴリーをカバーするサービスが必要だが、顧客ニーズ/考え方にフォーカスする必要もある
・フィナンシャル・プランニングの際には、金融以外の分野(事業や不動産など)にも配慮し、リタイアメントや相続にどう影響するかも考慮する
・リタイアメントを中心に、相続も視野に入れた資金/投資/保険/現金を俯瞰するアドバイスを提供する

(3)5000万円から1億円(アッパー・アフルーエント層)
このセグメントの世帯の多くも資産形成の目的はリタイアメントであるが、金融資産(確定拠出年金など優遇税制口座)よりも非金融資産(自宅)が圧倒的に大きく、多額の住宅ローンも抱えているケースが多い。
・ゴール設定(リタイアメント/教育資金/相続/生命保険・介護保険など)を行い、定期的なアップデートを提供する
・リタイアメントをめざした確定拠出資金(401k/IRA口座など)のモニタリングと軌道修正を行う
・運用ポートフォリオと長期/短期の資金ニーズを管理する
・フィナンシャル・プランニングには、自宅とその住宅ローンへも配慮する

(4)1000万円から5000万円(アフルーエント層)
このセグメントも資産形成の目的はリタイアメント対策であるが、金融資産額はわずかでウェルスマネジメント・サービスの対象にまで達していない。したがって職域での啓蒙活動やモバイル・アプリなどのツール提供がサポートの中心となる(顧客予備軍としての扱い)。
・職域のリタイアメント・プラン(401kなど)を通じて、リタイアメントに対する資金運用を早期に始めるよう啓蒙する
・支出の予算化ツールや定期積立プランなどを開発して提供するとともに、借入に関する金融教育(個人ローン/住宅ローンと資産構築との関連など)を推進する
・ローン商品の提供(銀行との提携や紹介プログラムの構築)を通じ、顧客とのリレーション強化を図る
・投資に関しては、シンプルな仕組みを提供する(ロボアドや少額から投資できる投資商品の紹介など)

(5)1000万円未満(リテール層)
米国の全人口の38%を占めるこのセグメントにとっては、資産形成よりも生活資金の確保が重要な課題である。
・職域のリタイアメント・プランを通じてフィナンシャル・ウェルネス・サービスを提供し、負債削減を支援して収入を生活資金/貯蓄へ振り向けることを支援する
・フィナンシャル・マネジメント・ツール(家計簿アプリ)を提供して家計の見える化を行う
・投資に関しては、シンプルな仕組みを提供する(ロボアドや少額から投資できる投資商品の紹介など)

■ セグメンテーションを超えた市場開拓
従来、米国の金融機関は、大手証券会社(メリルリンチやモルガンスタンレー等)がハイネットワース層に特化する一方、フィデリティやチャールズ・シュワッブがアフルーエント層に注力し、銀行がリテール層にサービスを提供するという棲み分けがあった。それが金融危機が落ち着いた2015年頃からロボ・アドバイザーやモバイルアプリを使った「浸食」が始まり、各社のポスト・パンデミック戦略が明確になるにつれ、他セグメント攻略が各社の大きな課題となっていることが明らかになってきた。例えば:
・モルガンスタンレーとメリルリンチは、買収を含め職域営業を強化している
・バンク・オフ・アメリカとメリルリンチの連携によるモバイル・アプリを活用した銀行顧客へのアプローチが発表された
・フィデリティ/チャールズシュワッブでは、ロボ・アド強化(リテール層へのアプローチ)とHNW顧客向けのサービス強化(資産額を増やした顧客を逃がさない方策)が行われている
今後の各社の進展に注目しておきたい。
 

ABOUT THE AUTHOR

Steven Suzuki is the Head of Asian Operations at Aite-Novarica Group, focusing on business development in Asia. Steven brings to Aite-Novarica Group over 20 years of experience in the Japanese financial services and information technology industries through Datos Insights's acquisition of Solution Services Inc. Steven founded Solution Services in New York in 2005. Based on a deep understanding of U.S. and Japanese financial industries, business practices,…

Read more