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消費者向けフィンテック企業は「総合デジタル金融プラットフォーム」を目指す

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2010年から2015年頃にかけ、米国では消費者市場をターゲットとしたフィンテック・ベンチャーが多数出現しましたが、大手金融機関がデジタル・サービスを強化するにつれ、合併やサービス停止が相次ぎました。その中で生き残った各社は、現在、サービスの拡充とターゲット市場を絞り込み更なる飛躍を目指しています。その動向をまとめてみました。

■ 消費者市場を目指したフィンテック・ベンチャー

米国では、2010年頃から消費者向けデジタル・バンキング(SimpleやMovenなど)やロボ・アドバイザー(Betterment、Wealthfrontなど)などのフィンテック・ベンチャーが多数出現した。その後、大手金融機関がオンライン・サービスを強化、モバイル・アプリの改善に注力する中、これらのフィンテック企業の中には大手銀行に買収されたり、フィンテック企業同士の合併、更にはサービスを中止するケースも出現した。

これらを変遷を経てサービスを継続している企業は、サービス内容の見直し/拡充を進め、2020年頃より「総合デジタル金融プラットフォーム」とでも言うべき、銀行口座/投資口座/ローン/クレジット・カードなどの金融商品をワンストップで提供し、合わせてデジタル・ツールによる投資運用管理/負債管理/家計簿機能などを組み合わせた統合金融サービスへと舵を切っている。

これらの方向性は、ロボ・アドバイザー企業のWealthfrontやBetterment(いずれも2008年創業)、学生向けローンから事業を始めたSocial Finance(SoFi:2011年創業)、オンライン・トレーディングのAcorns(2012年創業)、低所得者を対象とする銀行サービスMoneyLion(2013年創業)など、当初はそれぞれの分野で金融サービスを提供していたフィンテック企業いずれにも当てはまる。

■ ターゲット市場とビジネス・モデル

これら総合デジタル金融サービスに舵をきった各社には共通した考え方があるように思われる:

(1)サービスの統合化で付加価値

金融業は規制産業であり、一つ一つのサービスはコモディティ化からの脱却が難しい。ただ、これらを統合して提供することに加え、使いやすいアドバイス・ツール(中長期のフィナンシャル・プランニングや、支出をコントロールすることで投資資金を捻出するアドバイス、更にはローンを総合的に管理/組み替えることで金利支出を最小化するなど)を加えることで、顧客を長期的に「育てる」ことに注力する(孵卵器作戦/温室作戦などとも称する)。

(2)ターゲット顧客はHENRY(High Earning, Not Rich Yet)層

各社ともども、将来富裕層となる可能性が高い、比較的所得の高いミレニアル世代(おおよそ35歳から45歳)をターゲットとしている。米国の場合、年収10万ドルから20万ドルで、総資産額:50万ドル(ローンで買った住宅なども含む)未満のセグメントが対象だ。

(3)スケーリング重視

サービスはフル・デジタルで提供し、既存の金融機関よりもローコストでスケーリングできるサービスを指向する。人的サービスは最小限とする(人的なカスタマーサポートは提供するが、金融サービスそのものはデジタルでの提供を目指す)。各社とも、HENRY層が富裕層へと成長し、より複雑なサービス(相続対策や、多様な投資ポートフォリオの構築など)が必要となる10-20年後までには、AIの活用などでデジタル・サービスの守備範囲が広まると考えているようだ。

(4)収益源の多様化

各社とも、単一の収益モデル(ロボアドバイザー・フィーや金利収入だけ)では利益確保が難しかったことを経験しており、サービス内容の拡充=収益源の多様化をめざしている。具体的には「投資アドバイス/ポートフォリオ管理フィー」「金利収入」「クレジットカード各種手数料」「年会費」「各種紹介料」「広告料収入」「(クリプト通貨などの)コミッション」などの組み合わせだ。かつ各課金体系も顧客の納得性が高いモデルを模索している(投資アドバイス・フィーもAUMに合わせた%課金ではなく、年会費やメンバーシップ・フィーとするなど)。

■ 今後の方向性

顧客獲得チャネルに関しては、SNSやインフルエンサーの活用、金融サービス比較サイト(BakeriteやNerdWalletなど)での広告、職域サービスとの連携(HENRY層の長期運用資金は、現時点では401kなどに滞留している可能性が高い)などにも更なる工夫が必要となるだろう。

1970-90年頃に登場したディスカウント証券やオンライン証券(フィデリティ/シュワッブ/Eトレードなど)は、当時はいわば金融ベンチャーだったが、その時に獲得した団塊世代顧客が退職期に入った現在、巨額なAUMと圧倒的なシェアを誇る金融サービス企業に成長している。フィンテック・ベンチャー各社は、デジタル・ネイティブであるミレニアル世代との長期に渡るリレーション構築で、先人達の成功の再現を目指しているようだがどうだろう。

(参照)

・Datos Insights(ダトス・インサイツ)2023年7月発行レポート「Robo’s Next Step: The Rise of the Digital Financial Wellness Platform