金融業界では、カスタマー・エクスペリエンス(CX)の重要性が広く認識されるようになり、予算を確保し増員を予定している企業も増加していますが、リソース配分や何に投資すべきかの論議は、まだ焦点が定まっていないように思われます。アイテ・ノバリカ・グループでは、効果的なCX戦略立案のために必要となる3つの視点をまとめたレポートました(The Current State of CX Strategy: Three Governing Themes for Approaching CXを執筆しました(本レポートは、どなたでもダウンロード頂けます)。
■ パンデミックとカスタマー・エクスペリエンス(CX)向上への取組み
カスタマー・エクスペリエンス(CX)を差別化施策とする考え方は以前から存在したが、多くはFace-to-Faceの場をどうレベルアップするかという問題意識だった(日本の「おもてなし」)。インターネット時代となり、デジタル・チャネル(Webサイト/モバイルアプリ/Eメール/チャットなど)におけるCX差別化施策に注目が集まっている。
加えて、コロナ・パンデミックによるロックダウンが続いた結果、デジタル・チャネルのCXは、「ミレニアル世代向け施策」「Face-to-Faceの補完」から、主要営業戦略と位置付けられるようになり、企業は全社的な競争力強化施策として「カスタマー・エクスペリエンス戦略」の設定/見直しを迫られている。
■ CX戦略に関する金融機関の状況
アイテ・ノバリカ・グループ(ANG)が2022年第1四半期に金融機関(保険会社と銀行)200社に対して実施したCXアンケート調査によると、CXの重要性については、広くコンセンサスが得られており、大部分の企業が予算増額の意向だが、どのような施策を導入すべきかや効果測定の方法、問題点の改善方策などに関しては、適切な方策があるとは言い難い。
ANGでは、アンケート結果の分析から、企業が全社カスタマー・エクスペリエンス戦略を立案するためには、3つの視点が必要だと考えている:
(1)消費者とのコンタクト・ポイントの分析
消費者が金融機関にコンタクトする都度、エクスペリエンスが発生するが、同時にこれは金融機関がデータを取得できる機会でもある。また、その頻度/チャネル/コンタクトの理由/サービス提供方法などの組み合わせにより、顧客の期待値が異なるのが一般的で(例えば、モバイル・アプリによる残高照会の際と、カードによる年1回の生命保険料支払時は違う等)、それぞれの分析評価方策が必要となる。
(2)企業方針と現場の行動をどう一致させるか
「顧客満足度の向上」「新規顧客開拓」「売上/利益率の改善」など、企業としてのCX改善目標は示されているものの、「オンラインでのローン申込み」「ビッグデータ分析」「カード発行のデジタル化」など個別施策との接点が不明確で、各施策の背後にある「ビジネスプロセスの改善」「社員トレーニング」「コールセンターで受けた顧客からの要望/苦情の反映方策」などとの連携も不明確なケースが多い。
(3)企業規模/業種に合わせた施策の導入
小企業ならば全社CX施策の浸透やフィードバックは容易だが、大企業では体制作りやトレーニングが欠かせない。一方、業種により顧客とのコンタクト・ポイントや頻度が大きく異なるため、顧客の期待値やデータを収集できるタイミングも差が大きい。今回の調査(対象業種は銀行と保険会社)でも、銀行は顧客とのコンタクト頻度が比較的高い(入出金の都度など)が、生命保険では契約締結後10年間顧客とのやりとりがないケースさえある。
■ CCXOの任命が有効か
調査では、Chief Customer Experience Officer(CCXO)を任命している企業(97社)と任命していない企業(106社)との差異も調査したが、(1)全社的なCX戦略と各部門の役割分担/連携、(2)顧客目線によるCXの在り方、(3)各施策の効果測定/優先順位付けなどにおいて、CCXOがいる企業に優位性が見られた。
アイテ・ノバリカ・グループでは、2022年3月にカスタマー・エクスペリエンスに関するリサーチ部門を新設し、6月にはカスタマー・エクスペリエンス戦略の立案方法に関するレポート:The Current State of CX Strategy: Three Governing Themes for Approaching CXを発刊した(本レポートは、どなたでもダウンロード頂けます。本Blogはその要約です)。多くの企業で、CXに関する全社的なアプローチを進めていただければと思う。