ネオバンクが登場した2010-2015年と比べ、金融機関を取り巻く事業環境は大きく変化しており、大手金融機関のデジタル戦略が本格化する一方、金利の上昇から景気後退の懸念も出ています。アイテ・ノバリカ・グループでは、ネオバンクをメインバンクとして利用している消費者像をアンケート調査からレポート「U.S.Neobanks : Challenging the Challengers」にまとめ、リレーションシップ強化による収益確保への道筋を探りました。
■ 米国のネオバンク
ネオバンクの定義は諸説あるが、ここでは、2010年前後以降に登場したモバイル・チャネルを主体とした銀行サービスとする(デジタル・バンク、チャレンジャー・バンクなどの表現もあるが、ここでは区別しない)。ネオバンクの多くが、決済機能のあるチェッキング口座を提供しており、その他、貯蓄口座/クレジット・カード/無担保ローンなども提供するケースが多い。
米国では、現在約40社程度のネオバンクが営業しているが、知名度の高いChime Financial、Current、SoFi (Social Finance)、Varo Moneyなどは、それぞれ400-500万口座を保有している。P2PサービスのVenmoや、Walmartが提供するMoneyCard(チャージ可能なデビットカード)もチェッキング口座を追加、これらもネオバンクと言えよう。また大手カード・ブランドであるAmexやDiscover Cardなどもデジタル銀行サービスを提供している。
米国の場合、日本や欧州と違って銀行免許の新規取得が非常に難しいため、銀行免許を保有しているネオバンクはSofiとVaroなどごく少数で、大部分は既存銀行のアウトソースを利用して金融サービスを提供している。各社のスポンサー・バンクは下記のとおり。
・Chime Financial・・The Bancorp Bank
・Current・・・・・Choice Financial
・Venmo・・・・・The Bancorp Bank
・Walmart・・・・・Green Dot Bank
The Bancorp Bankは、ネオバンク向けスポンサー・バンク事業を積極的に推進している金融機関でもある。
■ ネオバンク=メインバンクは11%
2022年第三四半期から第四四半期に、アイテ・ノバリカ・グループでは、米国の消費者2000名に対して金融機関の活用に関するアンケート調査を実施、それによると11%(213名)がネオバンクをメインバンクとして利用していることが分かった。その半数以上が1980年以降に生まれたミレニアル世代/Z世代である。
アンケートからは、ネオバンクをメインバンクとしている消費者は、クレジットカードの保有率が低く(68%:その他平均は85%)BNPL利用が高い(48%:その他平均は28%)という特徴が分かった。また、銀行サービス利用の際には、Webサイトよりもモバイル・アプリからのアクセスが多い。またネオバンクでの口座開設にあたっては以下のポイントを重視した。
・口座維持費用が低い/無償
・P2Pペイメント機能がある
・クレジットカード/デビットカードをモバイル・ウォレットに登録する機能(Push Provisioning)を提供している。
一方、店舗や店頭でのサービス、ATM網などを意識する割合は少なかった。
■ 収益確保への道
ネオバンクの大多数がまだ黒字化を達成できておらず、ベンチャー・キャピタルやプライベート・ファンドに依存しているケースが多い。ただ、昨今の金利上昇や景気後退の懸念などから、2023年度は収益化達成が必須になると思われ、その道筋は厳しい。
ネオバンクは、店舗が無い分ローコスト・オペレーションが可能だが、収益化のためには、顧客とのリレーションを深耕しメインバンクとしての利用を増やしてもらう必要がある。ただ、アンケートの結果からは、ネオバンクの顧客は比較的所得が低い若年層の顧客が中心であり、メリットを感じてもらうための更なる工夫が必要だろう。一部では、移民/LGBTQ層/個人事業主など、ターゲットとする顧客属性を絞り込んでリレーションシップ深化戦略を打ち出すネオバンクもある。
ミレニアル世代やZ世代などデジタル・ネイティブが社会の中心となり始めたが、大手金融機関もデジタル機能を急ピッチで整備している。2023年のネオバンクの動きは興味深いものになりそうだ。