コーポレート・バンキングの分野では、企業ユーザーが金融機関に対して、API経由/BaaSとして銀行サービスを提供することを求めており、それを受けてAPI経由でのサービス提供が始まっています。ここでは、大手企業が求める要望と欧州の金融機関の対応状況をまとめています。
#当BLOGは、シニア・アドバイザー:Enrico Camerinelliが投稿したBLOG「Trends and Drivers in Corporate Banking: Banking-as-a-Service」の翻訳版です。
#このBLOGは、Enrico Camerinelliがモデレーターを務めた、NTTDATA Europe主催のWebinar:Trend &Drivers in Corporate Banking; 2022 and Beyond(2022年5月開催)における、欧州で進行しているコーポレート・バンキング分野のトランスフォーメーションに関する論議のまとめです。Webinarでは、金融機関/ベンダーから4名に登壇頂き、以下 2 つのトレンドを掘り下げました。
(1) Banking-as-a-Service (BaaS) と銀行業界のトランスフォーメーション
(2) ESGが、金融機関/企業のサプライチェーン・ファイナンス(ポリシー制定や意思決定等)に与える影響
当ブログではBaaSを取り上げます(ESGに関しては、別ブログとして投稿いたします)。
Banking-as-a-Service が注目される背景
私(Enrico Camerinelli)は、BaaSが登場した背景には、3つの要素があると考えている。第一は、銀行サービスを「As-a-Service」として提供できるのは、銀行免許を持った金融機関だけだという事実である。第二は、企業財務部門の「金融機関が提供するサービスを自社業務の一部として活用したい」というニーズである。APIを活用したシステム・インテグレーションがこれを可能にした。
第三は、BaaSによるカスタマー・エクスペリエンス(CX)の改善で、私はこれが最も重要だと考えている(CXを突き詰めると、BaaSよりも広範囲なエンベデッド・バンキングへと進化していくだろう)。BaaSは、複雑な銀行システムを利用するためのフロントエンドであり、状況に応じて適切なバンキング機能を提供できればUX向上に貢献できる。
金融機関のBaaS推進が成功するかどうかは、銀行自身がBaaSを自社戦略の中でどのように位置づけるかにかかっている。ここには3つの側面がある:
(1) コーポレート・バンキング・サービス全体のモダナイゼーション:
• 企業顧客が必要とするサービスを適切なタイミングで提供するためには、システム・インフラを刷新する必要がある。理想的なBaaSはその前提で提供できる。
(2) コネクティビティ/APIの提供:
• 顧客企業の財務部門は、金融機関との日々のやり取りを自社システム(企業規模に応じた、ERP/財務管理システム/会計パッケージなど)から直接行いたいと考えており、このニーズに応える必要がある。
(3) 効率性とアジリティの確保
• 法人顧客の要望や金融市場環境は刻々変化している。これに対応できる体制/仕組みが必須である。
モダナイゼーションのアプローチ
Webinarでは、参加者頂いた視聴者の皆様に対し、前述の 3 要素に対する各行の優先順位を聞いた。
結果からは、多くの金融機関がコーポレート・バンキングのモダナイゼーションを重視していることが分かる。銀行にとって究極の目標は、CXの向上と高い付加価値の提供であり、クラウド・コンピューティング/分かりやすい商品・サービス/AIを使った口座開設/ブロックチェーン/BaaSなどは、いずれも顧客サービスの価値向上に資する技術である。
ただ、モダナイゼーションの検討を始めると、それはテクノロジーだけの問題ではないことに気付く。以下のような視点なしにモダナイゼーションは達成できない。
• 対象業務の優先順位づけ:銀行が企業に提供している主要サービス(トランザクション・バンキング/トレード・ファイナンス/キャッシュ・マネジメントなど)は、密接に関連している。これらのモダナイゼーションには包括的なアプローチが必要である一方、それぞれのニーズは常に変化している。また、システムを一度にモダナイズすることは不可能で、企業戦略に沿った段階的な(インクリメンタルな)アプローチが必要である。ソリューション・ プロバイダーも、金融機関が優先順位を設けることを推奨している。
• 顧客に対する営業体制/サポート体制:これまで金融機関は、金融サービスを提供するためにテクノロジーを利用してきたが、現在では提供するソリューションがテクノロジーそのものである時代に突入している。「システムの継続的な改善」「API/コネクティビティ」「システム導入/維持をサポートできる体制」「24/7モニタリング」などは、システム・ベンダーの顧客サポート体制と同一である。
• データベースの整備;革新的なテクノロジー導入の前提として、データが整備され正規化されていることは論を待たない。
このようなコーポレート・バンキングの将来像が明らかになるにつれ、一部の銀行では、金融業としての立ち位置を根本的に見直し、ファイナンス会社やファンディング/投資会社へビジネス・フォーカスを変える事例さえ出現している。
企業ユーザーのニーズ
企業では、金融機関のコネクティビティに対して2種類の要望を持っているようだ。第一は、銀行との新規取引開始/新規口座開設に関する手続きの迅速化である。金融機関が顧客との新規取引開始に様々な手続きが必要となるように、企業側でも(特に大手企業の場合)自社内の承認を得るために複雑な手続きが必要となる。新規取引開始時の企業情報をスムーズにやり取りできれば、双方のメリットは大きい。
第二は、企業の会計部門で利用しているERPシステムと、取引のある全銀行を電子的に接続し、支払い指示をERPから一括して実行したいというニーズである。もちろんこれは理想像で実現にはまだ時間がかかる。同一銀行でも複数の商品/サービスを単一画面から見ることができないケースも多い。それぞれの銀行が個別のソリューションを提供しているが、見方を変えれば、各行からの情報を一つのプラットフォーム上に統合できれば便利な仕組みが構築できる可能性もある。
ただ、現実には相互運用性がなく、接続のための標準化論議も進んでいないので、企業がこれを実現させようとすると非常に複雑になる。データを入手するためにはサードパーティーの多種多様なプラットフォームを導入し、入手したデータと社内データベースとの整合性も確認しなければならない。これらの課題に対して一部にはソリューションがあるものの、道のりは遠い。
企業が求める理想像が実現すれば、経理部門担当者は、複数のシステムを参照することなく、ERPという単一のプラットフォームからどの金融機関に対する支払いでも指示できるようになる。ただ銀行システムの成熟度はばらばらであり、顧客側もWebサイト経由のファイル・アップロードを求めるケースもあれば、API接続を求める顧客もあるだろう。
洗練された接続戦略
コネクティビティの提供にあたって、金融機関は、顧客のニーズに合わせて基本機能から複雑なサービスまで様々なソリューションを準備しておく必要がある。最先端の企業では、既に「API接続も制限が多い」と考え始めたようだ:究極的には、企業/銀行間のメッセージは、あたかも同一企業内でのやりとりのように、アプリケーション間で行き来することになるはずだ。
もちろん、そこに至るまでには双方の多大な努力が必要であり、信頼関係の構築が必須である。銀行サービスがERPの拡張機能として提供されれば、APIゲートウェイやAPIコールは不要となる。先進的な企業は、双方のAPIレイヤーに不都合が生じた場合のことも考慮し、直接データをストリーミングできるソリューションを志向している。
世界各地の大手金融機関は、顧客ニーズに応じたAPI提供のために、自行のアーキテクチャーをどう変更しなければならないか検討を進めている。更に、前述のような企業の志向に対して、国別や商品毎のAPI接続ではなく、銀行と顧客企業間のグローバル規模での「単一デジタル・コネクション」を提供するプラットフォームはどうあるべきかの論議も始めている。
モダナイゼーションやコネクティビティは、現時点では、先進的な企業が金融機関にサービス提供を要求している段階だが、今後、銀行が標準的なサービスとしてこれらの提供を開始し、更に機能を追加するにつれ、恩恵を受ける企業も増える好循環に入っていくと思われる。
BaaS は、他のイノベーションと同様、金融機関にも顧客企業にも新しい価値を提供するソリューションとなるはずだが、そのためには、金融機関は行内のモダナイゼーション/コネクティビティの改善/フレキシビリティ確保に努め、変化が激しい事業環境の中で、顧客企業の競争力確保につながる仕組みを提供する必要がある(私がモデレーターを務めたNTTDATA主催のWebinar(全編)は、こちらからご覧頂けます)。