英国で始まったオープン・バンキングは、当初は政治主導との見方もありましたが、その後データ活用高度化のための制度整備が進み、次第に具体的な導入事例も登場してきました。ここでは、リテールバンキング分野を中心に、昨今の欧州におけるオープン・バンキング動向をまとめてみました。
■ オープン・バンキングの進展
欧州のオープン・バンキングは、2014年に英国財務省から発表された「National Open Data Strategy」がきっかけとなり、2016年に発効したGDPR(EU 一般データ保護規則)や2018年から施行されたPSD2(欧州決済サービス指令第2版)などでデータ保護に関するレギュレーション整備が進んだことから、具体的なサービスの提供が始まっている。
昨今、欧州の金融機関やソリューション・ベンダーの間では、オープン・バンキングに関して以下のような認識となっているようだ。
・金融に関する個人データを共有できれば、より便利なカスタマー・エクスペリエンスの提供が可能になる(口座の新規開設や各種ローンの申込み/審査など)
・複数の金融機関が保有するデータを組み合わせることで、競争力のあるサービスを提供できる(与信やKYCのスピードアップなど)
・エンベデッド・ファイナンス(ローン)やエンベデッド・ペイメントの提供により、カスタマー・エクスペリエンスの向上と金融機関の事業拡大を両立できる可能性が高い。
■ 英国での事例
ここでは、リテール分野の事例をご紹介する。
(1)他行データの共有
英国では、自営業を営む個人が住宅ローンを申し込む場合、会社員が申込む際の書類(確定申告書や住宅購入の契約書など)に加え、個人ビジネスの収支データを提供する必要がある。HSBCでは、2021年より自営ビジネスの銀行口座が英国の主要金融機関20行にあれば、収支データの提出を不要とした。背後では、HSBCは本人の承諾のもとに、データ・ブローカー:Experianを通じて該当銀行の事業口座データにアクセスしている。
(2)エンベデッド・ペイメント
英国の大手銀行:Barclaysでは、ECサイトを営む小売事業者に対して「Bank Pay」を提供している。ECサイトがBank Payを採用すると、チェックアウト時のオプションにクレジットカードやPayPalと並んでBank Payが加わる。
Barclaysに口座を保有する消費者が、チェックアウト時にBank Payを選択すると、ECサイトがBarclays銀行のサイト、或いは銀行アプリに切り替わる。そこでパスワード入力や指紋/顔認証を行い、購入を承認すると画面がECサイトへ戻ってチェックアウト終了となる。口座番号などの入力は不要で、ECサイトがカード番号を保持することもない。またEC サイトにとっては、カード決済に比べ手数料面での優位性がある。
■ 今後の方向
このように、欧州ではオープン・バンキングに関する規制整備が進んだことで、具体的なメリットを提供できるサービスも登場してきた。コマーシャル・バンキング分野においてもデジタル・ローンや企業の財務システム(ERP)と銀行をAPI接続した事例も誕生している。金融機関やソリューション・ベンダーは、オープン・バンキング(データ活用/API接続/BaaSなど)を活用した差別化施策を積極的に推進できる時代が到来したように思われるがどうだろう。
(参照)
2022年5月発行レポート「Open Banking, Open Finance, Open Economy: The New Identity of Finance」