ウェルス・マネジメント(WM)企業は、フィナンシャル・アドバイザー(FA)の業務効率化とサービスの質の向上をめざし様々なテクノロジー・ツールを導入していますが、これらがFAの間で広く利用されているかというと、必ずしもそうとは言い切れないようです。一方、テクノロジー利用が浸透しているWM企業の方が業績が良いことも事実です。Datos Insightsでは、FAに対するアンケート調査やヒアリング結果を分析し、どうすればFAのテクノロジー利用が活発になるかをレポート:Solving the Mystery of Technology Adoption, Part 2: Identifying Obstacles and Solutionsにまとめました。
■ テクノロジー・ツール利用と企業業績
WM企業のFAに対するアンケート調査によると、広く利用されているテクノロジー・ツールのトップ3は、「顧客向けレポート作成ツール」「フィナンシャル・プランニング・ツール」「CRM」であった。またテクノロジー・ツールがFA間に浸透している企業のほうが、効率的で事業の伸びも早く、顧客満足度も高いことが分かった。ただ、すべての企業で全ツールが100%利用されているケースはほぼない。一方でツールを使わない理由としてFAからは「使うと良いことは分かっているが使い方を習熟する時間がない」という意見が多かった。
■ 「習得する時間がない」を分析する
「時間がない」という意見だからといって、テクノロジー・ツールのトレーニング時間を増やせば問題が解決するかといえばそう単純ではないだろう。アンケート調査に加えてヒアリングを実施し、その背景を分析してみた。
(変化に対する抵抗とツール導入に対する価値の説明)
・ツールを使いこなしていないと認識しているFAも、日々の業務に支障をきたしていないケースが多々ある。事実、ツールを使っているFAと使っていないFAの業務処理時間も大きな差がない。
・ツールを導入するメリットを「業務の効率化」とだけ説明すると、FAのモチベーションにつながらず抵抗勢力となってしまう。導入することの付加価値(例:顧客向けアドバイスの質の向上や、ツール導入で得られる新たなデータなどFA自身に直結するメリット)を十分に説明する必要がある。
(ツールは使いやすいか、機能は充分か)
・ツールがFAのビジネス・プロセスにあっていない場合や、ツールを使った結果、顧客へのサービスが変わってしまう可能性をFAが心配し、ツール利用のモチベーションが上がらないケースもある。
・ツール個別の機能や使い勝手だけでなく、ツール毎の連携が悪かったりデータの更新タイミングなどに問題があるケースもある。これらを解決しないとFAの満足度が上がらず利用が伸びない。
(トレーニングが画一的)
・多くのWM企業で新しいツールを導入する際にトレーニングを実施しているが、画一的なケースが多く、個別FAの事情に合わせたトレーニングの実施が必要な場合もある。
・FA毎の業務プロセスの違いだけでなく、個人の学習パターンが異なることにも配慮が必要だろう。習熟度に合わせて一部の機能だけでも活用できるデザインになっていることも重要だろう。
・また、ツールを使い慣れるまでの継続的なサポート体制も必須である。
■ 社員エクスペリエンス向上の視点
米国企業では「社内システムの使い勝手が悪いと社員が転職してしまう」という問題意識が生まれており、「社員エクスペリエンス」を意識したシステム作りが始まっている。日本ではそこまでではないと思われるが、社内用テクノロジー・ツールにもアジャイル基盤を取り入れ継続的な改善/機能追加が必要な時代となっている。一方、WM企業にソリューションを提供するベンダー企業も、顧客の社員ユーザーからのフィードバックをUIデザイン改善に反映したり、ユーザー企業と一緒に、エンドユーザー・トレーニングを主催し、そのフィードバックを自社製品に反映する体制を整え始めた企業もある。社員でもあるFAのユーザー・エクスペリエンスを考えることは、遠回りのようだが結局近道のような気もするがどうだろう。