マスターカードでは、本年2月、AIを活用した不正検知システムの導入を発表しましたが、その後のメディア・インタビューなどでは、不正検知のアルゴリズムや、AIプロジェクトに対する経営判断ステップ等にも言及しています。その概要をまとめてみました。
■ AIで不正検知を向上
2024年2月、マスターカードでは、AIを活用した不正検知システム:Decision Intelligence Pro(DI Pro)の導入を発表した。不正検知を平均20%改善し(場合によっては4倍)、フォルス・ポジティブ(正規の取引を不正と誤認するケース)も85%減少させながら、50ミリ秒内の認証が可能になるというものだ。
不正検知のアルゴリズムに関しては、このプレスリリースでは「自社開発の回帰型ニューラル・ネットワーク」に、年間1000億回を超えるカード取引データや取引履歴を使った機械学習を行い、該当カードが該当マーチャントで買い物をする可能性を算出すると説明していた。
■ Decision Intelligence Pro(DI Pro)の仕組み
その後の報道では、DI Proの詳細への言及がある。そこでは、Mastercardが保有しているデータの分析に加え、Third-partyの協力を得てダークウェブにある漏洩データ売買サイトにアクセス、売買されている不正漏洩データの内容(多くは16ケタのカード番号の一部(下4ケタだけ等))を入手し、漏洩した可能性が高い16ケタの番号をAIを使って想定/復元する。
不正の発生率が高いECサイトは統計的に把握できているので、これらのマーチャントから漏洩した可能性のあるカード番号の承認リクエストがきた場合(ヒートマップのようなグラフィック・ソリューションを使って判断するという)、不正の可能性が高いと判断するアルゴリズムを作成し、検知精度を高めつつ応答時間短縮を実現したと説明している。
■ AIを活用するかどうかの経営判断原則
マスターカードでは、AIの様々な可能性を探るため、多数のPoCを行っているが、そこで有望だと思われた案件に対する経営判断のステップも興味深い。まず第一段階として、法務部門/プライバシー保護部門/営業部門を含む「AIレビュー委員会」が開催される。そこでは、AI活用のメリットと法的リスクやバイアスが発生する可能性を論議し、プロジェクトを進めるかどうかが判断される。
第一関門での承認後、第二段階として「テクニック・レビュー」が実施される。ここでは、効率化の効果(ROI)やスケーラビリティがチェックされるが、スケーラビリティが見通せない場合は、プロジェクトはその場で中止される。スケーラビリティの確認が有望なアイディアを失敗させない秘訣だという。テクニカル・レビューに合格した案件は、既に経営判断がなされているので、即座に開発に着手する。
同社では、DI Pro以外にもAIを活用した様々なプロジェクトを推進中だとしている。AI先進企業としてのMastercardに引き続き注目しておきたい。