ChatGPT登場直後は、全面禁止を打ち出した米国の公立学校でしたが、発表から2年を経た現在、22の州政府が「学校教育におけるAI/生成Ai活用ガイドライン」を交付、生成AIの利活用を後押ししています。ここでは、これまでの経緯とガイドラインの概要をまとめました。
■ チャットGPT登場から今日までの動き
2022年11月末にリリースされたChatGPTは、5日間でユーザー100万人を獲得、翌2023年1月にはユーザー1億人突破と利用が急拡大した。生成AIの出現により、各企業や学術界、政治などあらゆる分野でその影響や利用方法に関して様々な論議が生じたが、小中高校教育でも同様であった。ここでは発表時から現在までの動きを3つの期間に分けてまとめてみた(米国の新学年は9月スタートなので、それを区切りとしています)。
・第一期(2022年11月から2023年8月まで)・・利用禁止+厳密な管理下での試用
ChatGPTの登場に際し、学校教育界では「作文等の宿題をChatGPTで代替する生徒が続出するのではないか」という懸念が出され、例えばニューヨーク市の学校区(注)は、翌年1月6日には早くも「公立学校でのChatGPT全面禁止」を発表、多数の学校区が同様の方針を打ち出した。ただ、同時に先生方のコントロール下での試みも推進され、「レポートの原稿作成」「化学実験のアシスタント」「ソフトウエアコード作成」など、教育成果のありそうな分野が認識されるようになった。また、先生方自身の活用に関しても「宿題/研究課題のドラフト作成」「宿題の内容を生徒の進捗に合わせてパーソナライズする」などの分野で有効事例が報告された。
#注:学校区とは、市町村毎にある公立小中高校の上部組織で、傘下の公立学校の教育方針や学校施設、教職員の採用などに関して個別の権限がある(その結果、米国の公立校での教育は、市町村毎にバラエティに富んでいる)。
・第二期(2023年9月から2024年8月まで)・・トライアルの継続と州政府ガイドライン策定
2023年9月の新学期になると極端な警戒論は少なくなり「全面禁止」も解除された。より現実的な活用方策が多数試行され、成功事例の情報交換も活発化した(州政府主催のイベントなど)。これらの蓄積を踏まえ、2024年4月頃からは、翌新学期を睨らんで州政府による学校区向けの「AI/生成AI活用に関するガイドライン」発行が活発化した(現時点で22州がガイドラインを公表している)。
・第三期(2024年9月以降)・・ガイドラインに基づく利活用推進
2024年の新学期からは、州政府のガイドラインを参照したり、学校区独自の判断による生成AI活用が更に増加しているようだ。
■ 州政府発行のAI/生成AI活用ガイドライン:内容事例
州政府のガイドラインはそれぞれ独自色があり、ページ数も2ページ(ハワイ州)から81ページ(オハイオ州)まで様々である。ここでは生成AIに特化したアリゾナ州のガイドラインをご紹介する(全文はwww.azk12.ai からダウンロード可能)。
アリゾナ州のガイドライン「Generative AI in K-12 Eduication」は、同州内の学校区が小中高校での生成AI活用方針策定のベースラインとなるようまとめられており、教育関係者全員が読むべき冊子と位置付けられている。章立ては以下のとおり。
・生成AIに対する理解/リテラシー向上の必要性(先生自身と生徒の双方)
・生成AI活用に対する考え方と活用分野(先生編/生徒編/学校区業務編)
・生成AIが持つリスクの理解
・導入の進め方(学校区内/学校毎の組織体制/運営方法の例示と、定期的な見直しの必要性など)
全般を通じ「生徒に『生成AIの効果的な活用方法を自ら考える力をつけさせること』が先生の役割だ」とする立場が貫かれている。また、ガイドライン自身もフィードバックを得ながら随時改訂する姿勢が示されている。
■ ビジネス界での応用
アメリカの公共部門や公教育においては、透明性確保の観点から意思決定の過程がかなり公開されており、生成AI活用方針策定もここにご紹介したとおりの手順を踏んでいる。企業内でも同様のステップがとられるはずだが、その過程が公開されることはまずない。アリゾナ州など州政府のせいせいAIガイドラインは、企業にとっても参照できる内容だと思うがどうだろう。