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CMEグループがグーグル・クラウドへの移行を発表

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2024年6月、米国の先物取引所最大手であるCMEグループとグーグルが先物取引/オプション取引をクラウド環境へ移行すると発表しました。導入時期は2025年以降と思われますが、取引所取引の事業環境が抜本的に変わる可能性もあり、現時点での反響をまとめてみました(この日本語ブログは、弊社アナリストのJames Wolsternholmeがまとめたブログ「Speed and Scale, CME and Google—Take Your Pickを参照しています)。


■ CMEグループのクラウド移行
CMEグループとグーグルは、シカゴ郊外にあるCMEグループのデータセンター・キャンパス内にグーグルのプライベート・クラウド・リージョンを建設、CMEのトレーディング機能とコロケーション環境をクラウド移行する。

CMEは、2021年にグーグルからの出資を受け入れてデリバティブ市場のシステム・インフラ革新を加速させるとしていたが、今回のデリバティブ取引のクラウド移行計画はその具体策となる。これまでクラウド環境は低レーテンティー取引の信頼性を損なうと考えられてきたが、今回のCMEとグーグルのクラウド移行計画はこれを覆すもので、その成果が注目される。


■ HFT以外の市場参加者にもメリット
デリバティブ取引のクラウド移行が実現すれば、HFT(高頻度取引)事業者にはスピード面/コスト面から大きなメリットがあるだけでなく、HFTを行わない一般ユーザー(バイサイド企業のトレーダーや中小規模の機関投資家など)にとっても、取引のスピードアップとHFTがもたらす流動性を享受できるため、サイズの大きな注文でもマーケット・インパクトを与えることなく/少なく、迅速に実行できるとの期待が高い。

また、CMEは、2021年にOTC市場のポスト・トレード・ソリューションを提供するIHS Markitとジョイントベンチャー:OSTRAを構築しFX/金利/株式などの取引から決済までを一体化して提供するとしていた。今回の取引のクラウド移行には、OSTRAのポスト・トレード・サービスも組み合わされるものと思われる。


■ クラウド活用によるビジネス環境変化の可能性
昨今、欧米のバイサイド企業では、多様なマルチアセット取引を効率的に行いたいというニーズが高まっているが、クラウド環境はこの面でも期待が大きい。前述のようにオプション/先物/デリバティブなどの流動性が高まれば、いつでも取引できるとの安心感からポートフォリオへの多様なセットクラスの組込みが推進されるだけでなく、その種類もクレジットやクリプトなどオルタナティブ商品へ広がる可能性が考えられる。

一方、大手のバイサイド企業はこれらの変化(ポートフォリオの多様化やクラウドを利用したマルチアセット取引など)に対応できても、中堅の機関投資家にはテクノロジー面での敷居が高くなると思われるが、そこを埋めるトレーディング分野のアウトソース・サービスがすでに出現している。

このように、金融取引所市場がクラウド・ベースになれば、現在ある様々な制約や懸念が解消され新たな変革が加わる可能性が高い。キャピタル・マーケッツにおけるクラウド活用に関しては、このような波及効果にも注目しておきたい。