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米国のデジタル送金サービス:Zelle近況

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少額送金インフラ「ことら」が2022年10月よりサービスを開始しますが、米国のリアルタイム送金サービス:Zelle(大手銀行の共同運営)は2017年に利用が始まり、2021年度の利用額は4900憶ドル(18億回)に達しています。その近況をまとめてみました。

■ Zelleの概要
米国のP2P送金サービスは、Paypal傘下のVenmoが2009年よりサービスを開始、毎年倍々ゲームで利用額を伸ばしてきた。これに危機感を抱いた銀行業界は、2016年に大手銀行19行によるコンソシアム:Early Waring Serviceを結成、2017年にゼルをスタートさせた(当初の参加行は34行)。

Zelleは、銀行口座間のリアルタイム送金サービスで、各銀行のオンライン・バンキング・サイトやモバイル・アプリから送金相手の電話番号かメールアドレスを利用して送金を行う(相手の銀行口座番号は不要:受け手は自分の銀行口座に電話番号/メールアドレスを登録する)。「友人との貸借りの精算」「家族間の送金」などの用途が想定され、2017年の送金額合計は750億ドルと、Venmoの340億ドルを初年度から上回った。

■ Zelleの利用方法
Zelleに加盟している金融機関(銀行/Credit Union)は、2022年時点で1700行となり、米国の銀行口座の約80%からZelleを利用できる、金融機関がZelleに加盟していない場合でも、Zelleアプリ経由で送金が可能となる。

P2P送金の限度額は、各行が独自に設定でき、バンク・オブ・アメリカの場合は一日の上限が2500ドルまで/一か月の上限が2万ドルまで、CitiBankの場合は同2000ドル/同1万ドルとなっている(概ね1日の上限は1000ドルから5000ドル、1か月の上限は5000ドルから2万ドル程度)。P2P送金の手数料も銀行毎に設定可能だが、現時点では無料が定着している。

■ 今後の動向
2021年度、Zelleの送金額合計は4900億ドル(前年60%増)、2022年度も直近の第2四半期だけで1500憶ドルと前年を上回るペースで推移している。用途面では、支払い期限直前に家賃を払うケースが利用額を押し上げているという。競合するVenmoの利用額も拡大を続けており、2021年度には2300憶ドルに達した。

Zelleの利用は、昨今ではP2P送金に加えB2P送金(企業から個人への送金)の増加が著しい。用途は、スモールビジネスの従業員への支払いや、企業から個人への一回限りの支払い(リベートの交付や保険金の支払など:小切手の代替手段との位置づけ)だ。銀行業界はZelleのB2P送金を積極的に推進する一方、企業とは課金の可能性を話し合っているようだ。

店頭での支払いにZelleを活用する「P2B送金」も可能だが、こちらはクレジット・カード/デビット・カードとの競合が考えられ、推進するかどうか銀行業界の意見がまとまっていないと思われる。”Zelle”と”ことら”双方の動向に、今後とも注目しておきたい。
 

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Steven Suzuki is the Head of Asian Operations at Aite-Novarica Group, focusing on business development in Asia. Steven brings to Aite-Novarica Group over 20 years of experience in the Japanese financial services and information technology industries through Datos Insights's acquisition of Solution Services Inc. Steven founded Solution Services in New York in 2005. Based on a deep understanding of U.S. and Japanese financial industries, business practices,…

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